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キミとボクの命の日

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いつかどこかの4月4日。
「お誕生日おめでとうっ!」
 少女の前にはケーキ。
 12本のローソクが立てられている。
 夜の真っ暗な教室をぼんやりと照らす12本のローソク。
 少女がそれを吹き消すと、教室は静かな闇に包まれた。
 パチパチパチ。
 教室に響き渡る少女の拍手。
「おめでとーっ……」
 教室に響き渡る少女の声。
 ケーキ屋からもらってきた、消費期限切れのケーキ。
 理科室から盗んだ12本のローソク。
 教室にたった一人の少女は、そのローソクをケーキから抜き取る。
 クラスメートにボロボロにされたお気に入りのノートに載せたケーキ。
 そこに、ゴミ箱からひろったプラスチックのフォークを突き刺す。
「いただきます……」
 先日、画鋲を仕掛けられた椅子に座り、少女は静かにケーキを食べる。
 ぽたっ。
 『死ね』『消えろ』と書かれた席に一粒の涙がこぼれ落ちる。
 レンズを片方割られたメガネの奥の少女の目にも涙。
 少女はケーキを食べ続ける。
「……おいしい………」
 消費期限切れのケーキを食べ続ける。
 やがてケーキはすべてなくなる。
 少女はそっと立ち上がる。
 少女は、先日カバンを放り投げられた窓へと向かう。
 下を見下ろす。
 見えるのは数十メートル先のコンクリートの地面。
 ここは3階。
 今日は少女の誕生日。
 そして、今日は少女の命日となる。
 少女はそっと、右足を窓枠にかける。
 パチパチパチパチ。
 誰かの拍手。
「おめでとう」
 誰かの声。
 少女は足を下ろす。
 少女は振り返る。
 目線の先には一人の少年。
「キミは誰?」
「ボクが誰だって別にいいじゃないか。さあ、こっちへおいでよ」
 少女は戸惑う。
「一人で祝ってないで、一緒に祝おうよ」
 少年が手招く。
「プレゼントがあるんだ。だからおいでよ」
 少女が歩き出す。
 少年の方に向かって歩き出す。
「やっときてくれた。これがボクからのプレゼントさ」
 少年は少女に何かを差し出す。
 少女は少年から何かを受け取る。
「マカロン……?」
「そう、マカロンだよ。好きでしょ?」
「うんっ」
 少女のうれしそうな表情。
「あれ? 少女ちゃんどうして泣いてるの?」
「嬉し涙だよ」
「喜んでもらえてボクもうれしいよ。さ、嬉し泣きもいいけど、食べてよ」
「うんっ」
 少女はマカロンを口に近づける。
 少女は口を開く。
 少女はマカロンを口に入れる。
 じゃりっ。
 少女はマカロンを噛む。
 少女の口は血だらけになる。
 口からこぼれる血と画鋲。
「だめじゃないかぁ、ちゃんと全部飲み込まなきゃ」
 少年の困った表情。
 少女の恐怖に歪んだ表情。
「じゃあ、次行こうか」
 ぐザッ。
「ンッッ!!!!」
 少年が少女の腹を刺す。
 4本のカッターナイフで刺す。
 ざぐっ。
「ンンンッ………」
 一気に引きぬく。
 血が溢れ出る。
「見えないほうが気楽かな? そうだよね? 少女ちゃん?」
 グチュッ。
「あぅ…ッ………」
 開いたハサミが少女の両目に突き刺さる。
 嬉し涙の涙跡。
 そこに血の涙が流れる。
 ぶすッ。
 少年は少女の喉にボールペンを突き刺す。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 ブスッ。
 12本のボールペンを突き刺す。
 地面に散らばったローソクと同じ数だけ。
 少女の歳と同じ数だけ。
「ゴボゴボゴボゴボシューしゅるじゅるシュー」
 少女の声は失われる。
「さア。次でサイゴだヨ」
 少年が微笑む。
 微笑みながら何かを取り出す。
 微笑みながらドリルを取り出す。
 ヴィーン。
 無慈悲なドリルの音が、二人しかイない教室に鳴り響く。
 ヴィーン。
 ドリルは少女の左胸に迫ってゆく。
 ヴィーン。
 ずぶずぶずぶ。
 ドリルは少女に穴を開けてゆく。
 ぐじゅぐじゅぐじゅ。
 ドリルは少女の命に穴を開けてゆく。
「やっと、おわったかな? オワッタネ☆ヨカッタネ☆」
 ドリルの音が止まる。
 少年の前には壊れた少女。
 それはもう生きてはいない。
 もう生きてはいないただの肉の塊。
 少年はうれしそうにその塊を見下ろす。
「さあ、次はケーキだ」
 少年はノコギリを取り出す。
 ザグザグザグ。
 少女の右腕が取り外される。
 ごりごりごりごり。
 少女の左腕が切り離される。
 左脚。
 右脚。
 ケーキの材料がそろってゆく。
「よいしょっと」
 ゴキボキグチュッ。
 少女の首がもぎ取られる。
 グサッ。
 ざくざくべちょべちょ。
 少女の腹が切り裂かれてゆく。
 あらわになる内蔵。
 少年の舌なめずり。
 それぞれ2つに折った腕と脚。
 8本全部がが少女の腹に突き立てられる。
 まるでショートケーキのいちごのように、真ん中には少女の頭。
「とーってもおめでたい日だからネ。うーんとケーキを楽しまなきゃ」
 少年は腕や脚に火を灯してゆく。
「おめでとう、ボク。おめでとう、名も知らない少女ちゃん」
 少年は火を吹き消す。
「ボクと少女ちゃん、命日おめでとう」
 少女の命日から今で8分。
 少年の命日から今日で8年。
 この学校では8年前から、いじめられっ子が行方不明になって二度と見つからなくなる現象が起きている。
 毎年4月4日に……。
 まァ、どうせいなくなった子を気にする奴も居ないわけだが。
作品名:キミとボクの命の日 作家名:飛騨zip