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人形の心*1-2

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授業は大きく分けて二つに分かれる。一つは魔術。もう一つは剣術。ダルドールはもちろん剣術の方だった。
 午前中は剣術に関しての知識を増やし、午後は実践。次第に実践ばかりになっていき、過酷な体力づくりに倒れるものも多々いた。簡単に学園を辞めていく者もいて、彼は心底驚いたのだった。

「せっかく、こんな良い学園に入れたのに……」

 剣の素振りをしながら、授業を放棄して学園を出て行こうとする生徒の後姿を見て、ダルドールはそうつぶやいた。

「ま、この学園に入れるくらいの才能もってりゃ、城の兵士にはなれなくても、他にも道はあるしな」

 ため息交じりにそう言ったのは、入学式の日に話しかけてきた男、ヴェンだ。

「そういうもんか……」
「お前はどうなんだ。辛くねぇのか」
「何が?」

 きょとんとした顔でそう言うと、ヴェンは呆れたように、

「走りこみとか、こういう素振りとかだよ」
「辛くないわけじゃないけど……まぁ、死ぬほどじゃない」
「へぇ」

 つまらなさそうにヴェンはそう言う。

「そういや、あの女……マリネとか言ったか。あいつはどうなんだ?」
「順調らしい。断トツトップらしくて、他の子から悪口言われているのを聞いたことあるくらいだ」
「そんなすごい奴だったのか、あいつ」

 入学式で喋ってからというもの、ダルドールはマリネとヴェンと共によく行動をしていた。
 マリネは先ほどダルドールが言った通り妬みを言われることが多いし、ダルドール達の剣の腕もトップの方にいるので、プライドが高い者達が集うこの学園では敵対視されることが多く、自然と三人でいることが多くなったのだ。

「そういや、もうすぐ夏休みだな」

 心なしか明るい表情でヴェンはそう言った。

「あぁ……そういえばそうか」
「何だ。嬉しくなさそうだな。もしかして、夏休みもこの学園の寮に留まって剣の稽古すんのか?」

 ダルドールは苦笑を浮かべる。

「家に帰っても、どうせ剣の稽古をやらされるんだよ。だから、悩んでるんだ」
「ふぅん。お前の両親って、そんなに熱心なのか」
「あぁ。親父がな。何でも、昔は剣闘士で有名だったとか……」

 ヴェンの素振りが一瞬止まった。

「け、剣闘士って……見世物として命がけで戦う奴だよな。糞みてぇな金持ち野郎達のお遊び的な奴……」
「そうらしいね。どうしても金が欲しくて自分から志願してやってたらしいけど」
「金のために命かけてたのか?」
「絶対に勝てるっていう自信があるくらい、剣の腕があったらしいよ。最も、今じゃただのおっさんだけど」

 ヴェンは信じられないといった顔を浮かべていた。

「……なるほどな。お前がそんだけ強いわけだ」
「俺はまだまだ弱いよ」

 素振りで汗だくになりながら、照れ笑いを浮かべてダルドール
はそう言った。



 授業が終わった生徒達は教室でホームルームをすませ、自分の寮へと帰る。寮は一年、二年、三年と学年で分かれており、様々な部屋がある。広い一人部屋もあれば、狭い四人部屋もあり、その部屋割は成績で決まる。ダルドール達は上等な二人部屋で同室だった。
 まるで高級ホテルのような寮で、夏休みの間もこの寮で過ごすという者達も少なくはない。教師は夏休み中も学園内にいるし、教室も校庭も開放されている。練習をやりたければやれ、ということだ。
 大浴場は一階にある。各部屋にもシャワーはついているが、ダルドールは度々この大浴場に来ていた。
 飲み物を買おうと出入り口の方へと歩く。ふかふかのソファに、横に広い廊下。何も知らぬ人が訪れてきたら、間違いなくここは高級ホテルだと思うだろう。
 自動販売機へ近づき、この学園の学生証、もといIDカードを触れさせる。学園の生徒ならば、無料で買えるという仕組みになっているのだ。
 スポーツドリンクを手にとり、口に含んだところで、入口から誰かが入ってくるのが見えた。
 その姿を見て、ダルドールは目を見開く。

「――マリネ」

 そうつぶやいて、慌ててマリネに近づいた。
 もうとっくに夜だというのに、彼女は制服を着ていた。急いで来たのだろうか、額に汗が浮かんでいる。

「良かった、すぐ見つかって。実は、相談したいことがあって――」

 少し遠くから、生徒の話声が聞こえてくる。

「とりあえず、外に出て話そう」

 そう言って、マリネを無理やり外へ押し出す。
 むわりとした空気が襲ってきた。夜になっても、まだまだ暑い。

「男子寮には入っちゃいけないっていうルールがあるの知ってるだろ? 相談するのはいいけど、なんで今なんだ。明日でもいいじゃねぇか」

 呆れた顔でそう言うと、マリネは頬を膨らませる。

「仕方ないじゃない。もう明日の朝には決断しなくちゃいけないんだもの」
「決断?」
「……今日ね、学園長に呼び出されたの」

 さらりとそう言うが、学園長に呼び出されるなんてことは滅多にないはずだ。彼女ほどの天才となれば、話は別なのかもしれないが。

「その話の内容っていうのがね、その……アインザー王が、私に協力を要請してきたらしいのよ」
「王から協力だと?」

 次から次へと驚くことばかりだ。思わず頭を抱えた。

「何だよ、それ。お前、いつの間にそんな……」
「突然のことで、私にだってよく分からないのよ」
「で、何を協力してほしいって?」
「……それが、よく分からないの」

 困った顔を浮かべるマリネに、「は?」とダルドールは呆れた顔でそう言う。

「私も、何回もちゃんと聞いたのよ? でも、口を濁すばかりっていうか……。国のためになることだとか、これはものすごい名誉になることだとか……そんなことばっかり。挙句の果てに、明日の朝までには協力するかしないか決めろって言うし」

 疲れ果てた顔をしてマリネは言う。

「お前はどうしたいんだよ」
「面倒事に巻き込まれるのは嫌だし、正直断りたいわ。でも、王からの願い事よ? ……断ったらどうなるか、分からないじゃない」

 ダルドールは含み笑いをする。

「大げさに考えすぎだろ。この学園が、お前みたいな天才を簡単に手放すわけない」
「……そうかしら」
「あぁ。それに、もし本当にお前を協力させたいなら、意思決定なんてさせないだろ?」
「確かに……そうだけど」

 それでも不安そうな顔をする彼女の肩に、ぽんと手を置いた。

「とりあえず、その要望の内容っていうのを詳しく聞かない限りは協力出来ませんって言ったらどうだ?」
「……そうね。うん、そうする。ありがとう、ダルドール」

 いつもの笑顔を浮かべて、マリネはそう言った。





「やっと、力の持つ者が現れたよ!」

 興奮した様子でそう言う男を、女はやつれた顔で見つめていた。

「……嬉しそうね」
「当たり前だ! 今回ばかりは、ダメだと思っていたからね。あぁ、安心して。金髪のとても綺麗な女性だ。昔の君にそっくりなんだよ」

 女は男の言葉を無視して、窓の外を見つめる。

「……それじゃあ、私は準備があるからもう行くよ。きっと明日には出来るはずだから、よろしくね」

 そう言うと、男は部屋を出て行った。
 閉まった扉を見つめ、しばらくして女は立ちあがる。
作品名:人形の心*1-2 作家名:花咲薫