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夢と少女と旅日記 第3話-3

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 私がダイブした先はどこかの競馬場のコース上だったようです。モデルとなった場所があるかどうかは分かりませんでしたが、多分あるんだと思います。ロレッタさんの夢はそれまでの夢とは違い、現実感がありましたから。しかし、このときの私はそんなことを考えている余裕はありませんでした。
「――危ないッ!」
 ダイブの直後にそんな叫び声と馬が走る音が聞こえたからです。声がした方を向いて見ると、すぐ目の前に馬に乗った彼女がいて、今にも私に激突しそうでした。
「きゃっ!?」と私も悲鳴をあげましたが、避けることはできず思わず尻餅をついてしまいました。
 しかし、すんでのところで騎手の女性は手綱を強く引いて、馬は止まってくれました。そして彼女は下馬して、私の方に歩いてきました。もちろん彼女こそがロレッタさんでした。
「大丈夫か!? 手を貸そう。立てるか?」
「あいたたた……。あ、いや、自分で転んだだけですから平気です。問題ありません」
 と言ったものの、差し出された手を無視するわけにもいかなかったので、素直に掴んで立ち上がりました。
「び、びっくりしましたね……」とエメラルドさん。どうせあなたは飛んでるんだから、激突はしなかったですけどね。
「それにしても、突然テレポートしてきたように見えたが、魔法の詠唱にでも失敗したか?」
「あはは、まあそんなところです。こういうこともあるんですね」
「見たところ怪我はしてないようだが、念のため調べよう。すぐそこに休憩所があるんだが、一緒に来てもらえるか?」
「あ、はい。私も大丈夫だと思いますけど……」
 けど、これは絶好の機会だと思いました。まずはロレッタさんから話を聞いて、どのような夢の世界なのか理解することが最善だと思ったからです。
 休憩所に着いて、服を捲って腕やら脚やら確認してみましたが、どこにも怪我はありませんでした。
 まあ、そんなことはどうでもいいです。それよりもロレッタさんの病気の方が気掛かりでした。夢の世界のロレッタさんは一見なんの病気も患ってないように見えましたが、よく見れば冷や汗をかいているようでした。
 私にとっては見れば分かることなので説明が難しいですが、運動をしたときの汗とは違う汗なのは明らかでした。
「ロレッタさんの方こそ大丈夫ですか? なんだか顔色が悪いようですが……」
「見て分かるのか……? ――いや、それより何故私の名を?」
「あ、いえ、私、大の競馬ファンで騎手名鑑であなたの顔を見たことが――」
「嘘だな」
 ぴしゃりと言い切られました。
「いや、嘘ではないかもしれないが、本当のことを言っていないようだ。隠さなくていい、本当のことを言ってくれ」
「ええっと……」
 まさかこちらが詰め寄られるとは思っていませんでした。しかし、全てを包み隠さず話さなければ前には進めないと思いました。
 だから、私は話しました。この世界がロレッタさんの夢の世界であること、――そして、現実世界でのロレッタさんの病気のこと。私がロレッタさんについて知っている全てのことを。
「そうか……。いや、そんな気はしていた。確かに本当の私は馬に乗ることもできないくらい身体が弱っていたはずだ。夢の世界でも若干の体調不良を感じるのは、私がどちらかと言えば現実主義よりの考え方をしているせいか……」
「そこまで分かっているなら、こんな夢の世界なんて壊しましょう。あなたがいるべき世界はここじゃない」
「だが、それでも、私が馬に乗ることができる世界はここしかないというのもまた事実だ。私は誰よりも速さを求めていた。たとえここが現実世界ではないとしても、私は速さを追求したい」
「でも――」
「すまないが、私の好きにさせてくれ。私に残された時間がわずかだと言うなら尚更だ」
 私は言いかけた言葉を飲み込むしかありませんでした。ロレッタさん本人が全てを知った上で、この世界で残された時間を過ごすことを望むと言うなら――。
「分かりました。それなら私にも考えがあります。少しの間だけここで待っててもらえますか? 30分もあれば戻ってこられますから」
 そう言って、私は休憩所をあとにしました。――いえ、この夢の世界から一旦出ることにしました。そして、現実世界でエメラルドさんが言いました。
「ネルさん、考えってなんですか……?」
「はぁ、それくらい考えてみてくださいよ。彼女が今望んでいることは何か。あなたにだって分かるはずですよ」