みをけずる
父から久々に電話がきた。母は、やっぱり家を出ていったそうだ。ああ、そうなの、うん、二人が決めたことなら良いと思うよ、そういえば最近連絡くれなかったね、どうしたの。
「入賞おめでとう。」
ありがとう。
「……どうして、あんな絵を描いたんだ?みんな言っている。あれじゃ、まるで、お前。」
うん。愛してるんだ。ずっと父さんに嫉妬してた。ずっと、あの人を、ああいう目で見ていた。あの絵が、僕の目に映る母の姿だ。ごめん。
僕は電話の間、ずっと微笑んでた。だってこんなのはもう蛇足だ。だいたいのことは、もう、あの絵の中にある。
父は母の連絡先を、教えてくれなかった。僕もあえて聞かなかった。知ったってどうしようもない。大丈夫。泣かない。もう、捨てたのだから。
その代償に、僕は何を得たんだろう。例えば、この先僕がもっと有名になって、評価されたら、百年後、この絵はどんなふうに語られるんだろう。僕は何を得たんだろう。わからない。僕にはまだ、わからない。