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心の病に挑みます。

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<章=はじめに>

関東中央大学(仮称)を留年した大和雄志(やまとゆうし:仮名)は、将来への不安から暗澹たる気持ちに陥り、時に自暴自棄になりそうな自分を変えたいと、活路を見出すため懸命に努力を続けていたのでした。
しかし、下宿での孤独な環境のなか、食事や生活習慣もいつしか乱れ、就職か進学かで、将来の進路を見出せなかったその時に、ある出来事がきっかけで、急性の病気を発症してしまうのでした。
その病の名は統合失調症。一生を棒にしてしまう病気にかかりながらも、母の懸命な祈りもあり、再び大学生活を送れるようになります。
ところが、発病から約半年後、雄志は就職活動に挑戦するものの、薬の副作用から頭は朦朧とし、注意力は散漫、履歴書には不備も多く、内定を勝ち取るには至りませんでした。
その中で、自分の病気についてもっと勉強したいとのかすかな期待と目標を抱くようになりました。
病気になった経験を基にその仕事につく・・・。無謀で突飛な挑戦のように思えますが、雄志は本気だったのです。
大学をかろうじて卒業したあと、両親の理解もあり、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、雄志は出身地の大阪に帰り、専門学校を受験します。
試験合格後、精神保健福祉の道を歩むことを決意しますが、生来の生真面目さや、病気の症状、副作用などで、表情や思考などがガチガチに硬くなっており、
“力を抜く”“遊ぶ”ことに不慣れな雄志は、なんとかして肩の力を抜こうと“頑張って”しまうのでした。
施設見学で同じ病の人に病気のことを相談したり、講師の先生の実践的な講義を聞いているうちに、「僕の探していたものは、この道だ!」と、納得し希望が見えてきます。
また、運命を共にする一人の女性とも出会い、交際していくなか、女性の気持ちを少しずつ理解できるようにもなっていきます。
そして、国家試験に合格し、無事、就職した雄志は、心の病を抱えながらも、地域で、同じ病を持つ人のために、働きはじめます。
やがて結婚をし、地域医療・福祉に取り組む雄志ですが、再び体調を崩し、退職してしまいます。
繰り返す転職、理不尽なリストラ、失意の底でもがき苦しむ雄志が、その先に見えてきた道とは!?
この小説に登場する人物・地名は、すべて仮名・仮称ではありますが、実在の人をモデルにした部分もありますし、
創作で架空の人物を登場させている場面もあります。
なぜ、本小説を書こうと思ったのかと申しますと、雄志の歩んでいく道が、同じ病をもつ方の希望となり、また、関係者の方々の参考資料になれればという思いからです。
どうかその意味で、この作品を温かく見守って頂けたらと思います。


<章=第一章 〜闘病編〜>

絶望と希望

「これが組織の秘密基地か!やばい、逃げないとほんとに危険だ!」
それは西暦2000年の秋の夕暮れであった。
24歳となる雄志の通う関東中央大学には紅葉した木々が、構内に彩りをそえていた。
関東中央大学で迎える大学祭も今年で5回目。
「本当は、ちゃんと卒業して今頃、仕事についていないといけないのにな・・・。」
沈みゆく夕陽を眺めながら、そうつぶやくと、雄志は残っていたタコ焼きを一つ口に運んだ。
「今年で最後だな。せっかくだからよそのサークルの展示も見に行ってみよう。」
雄志は少しだけ冒険する思いで、他のサークルの展示と講演をのぞきにいこうと、ある部屋へと向かった。
雄志はそのサークルの講演を聞いたあと、主催者に「飲み会があるから」と案内されるままに、大学のそばにあるビルの屋上の一室に招待され、そのままなぜか閉じ込められてしまっていた。
「何?こいつは日蓮を信じているのか?ちっ、よく監視しておけ!」
ビールを少し口にしたあと、この団体の中心人物らしき小澤(仮名)という学生が憎らしげに舌打ちしているのが聞こえた。
 この日は“俺”という新しいメンバーがきたことを歓迎してくれる飲み会であったらしい。
 部屋を見わたすと、天井には大東亜戦争を彷彿とさせるポスターが貼っていたり、また、入り口の扉には暗示をかけるようなギョロギョロした眼のポスターが雄志を洗脳するように見つめていたりして背筋がゾクゾクとしたのだった。

「なんだろう、このサークルはなんなんだ?」
雄志は身構えた。
そして、講演のときに手にしたパンフレットをよく見ると、
「南無阿弥陀仏!」
とその冊子に書いてあるのに気づいた。
一瞬、雄志は固まった。雄志は念仏思想とは対極の教えである日蓮仏法を信じていたのだ。

さて、今閉じ込められている薄暗いこの屋上の部屋から、どうすれば、脱出できるのか。
また、どのようにして自分への敵対心を軽減させ、わかりあえるのかを雄志は考えていた。
しかし、「今日来た、日蓮を信ずるあいつをどうするか」と中心者の小澤と、この建物の一階を事務所にしている幹部らしき大人が、雄志について話しあっているのを聞くにつれ、雄志はこの先どこかへ連れ去られるのではないかと思うに至った。
ともあれ、その晩は勧められるままビールを飲んで全員が寝静まるのを待った。
そして、雄志は幹部の目が覚めないように、毛布をかぶり横になりながら、自分の体を出口の方に小刻みに動かしていた。
“もし今この時を逃せば、いつ、解放してくれるかもわからない。しかもここは屋上で鉄のトビラで閉められているじゃないか!閉じ込めて俺をどうするというのだ。何としてでも今、ここを脱出しなければならない。もしも逃げるのがバレては殺されてしまう!”
雄志はそう直感で思い込んだ。
雄志と幹部の大人は別々の毛布にくるまって寝ていた。茶色の毛布にくるまって寝たふりをしているが、雄志の意識は冴えている。
幹部が起きないように、毛布をかぶったままそろーっと出口の方へ体を這い動かしていった。
「よし、行ける!」
と雄志は身を起こしドアのノブに手をかけようとした。
その時、
「どうした!」
と幹部が目を覚ました。
心臓が飛び出るほどの恐怖心が雄志を襲ったが、落ち着けと自分に言い聞かせ、ふたたびゆっくりと寝たふりをした。
幹部は、酔っているようだ。また布団をかぶりぐっすりと寝たのだった。
雄志はソーっと出口の扉をあけるのだった。
「よし!出れた!」
そのとき、ブオーン!ブオーン!とブザーが、けたたましく建物の内外に鳴り響いた!
「やばい!」
身の毛もよだつ恐怖が雄志の全身をかけめぐり始めた。雄志は、無我夢中でビルの階段をかけ降り、さらに自宅に逃げるべく、全速力で大学構内を駆け出した。もう何がなんだかわからなかった。
「おい、あいつが逃げたぞ!」
後ろで小澤の声が聞こえた。黒い凶暴な犬が5〜6匹、吼えながら雄志を執拗に追いかけてくるではないか!
背中に包丁をつきつけられたような恐怖が背筋に幾筋も走っていく心境がしばらく続いた。
大学構内の木々が風で揺れている。いつも見慣れている風景のはずだが、雄志には何か木がうったえかけているように映った。
いや、木はざわめきたち、これから起こることをとても警戒しているかのようだ。
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志