小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

調理実習

INDEX|1ページ/1ページ|

 
秋季(しゅうき)棟の西校舎三階の突当りは、調理室である。其処から、包丁とまな板が奏でる、リズミカルな音が響く。藍梨(あいり)は隣で野菜を刻む友人・明歌(あきか)の所作を見て、感嘆のため息を漏らした。

「アンタ、ホント器用な性質(たち)よね」
「家で手伝いはするからな! 藍梨、若布は一等最後に入れるんだぞ」
「うおっと、危なかった。ありがとね」

 今日のメニューは基本的な料理――白米ご飯、味噌汁、焼き魚(切り身)、野菜炒めである。しかし、いくら基本的(シンプル)でも皆は真剣そのものだった。なんせ、この料理や調理過程が成績となるからだ。
 明歌と藍梨は、あみだくじにより同じB班になった。明歌は野菜炒めを担当し、藍梨は味噌汁の具を煮込んでいる。同じ班に女子がいると男子はサボタージュしかねないという、担当教師の采配により。男女別の班に分かれていたため、二人のいるB班は全員女子生徒だ。メンバー中、一番料理の場数を踏んでいるが明歌だったため、彼女が自然と班長となって、他の班員に指示をしていた。そんなわけで、残りの二人は鍋で米を炊き、魚を焼いている。

「藍梨は料理をするのか?」
「たまにね。ホントは掃除と洗濯が主なんだけどね。兄貴達に夜食作ったりとか……あたしも食べるけど」
「実に藍の字らしいな。先程の包丁さばきは見事なものだったじゃないか」
「ま、まあね……でもアンタみたいにはできないわ」

 藍梨は味噌汁(味噌はまだ投入されていない)をかき混ぜた。芳しい煮干だしの匂いが、なんとも食欲を刺激する。早く早くできないかと、藍梨は先ほどからずっと考えていたりする。

「こら、今はテスト中よ」

 具をつまみ食いしようとしたら、明歌に止められたのは言うまでもない。

「明歌ちゃん、お米が炊き終わりましたわよ」
「ありがとう。では、五分ほどそのままにしておくれ」
「ねぇ、明歌。前から思ってたんだけど、お米洗ってから何で二十分放っておくの? 炊き終わってからも五分ぐらいっていうのもさ、早く食べられないじゃない」
「二十分おいておくのは米に水を吸収させるためだ。炊き終わってからは蒸らしといって、艶を出すために必要なんだと。そうすると米がよりおいしくなる。藍梨も、食べるなら美味しいご飯を食べたいだろう?」
「ふーん、あたしとしちゃー食べられるんなら何でもおいしいと思うけど……そういうもんなの?」

 納得したようなわかっていないような、そんな藍梨に明歌は小さく笑う。
 材料を切り終わり、フライパンに油をひいて加熱させる。多少のアレンジはかまわないという教師の計らいによって様様な材料や調味料が用意されており。明歌はそれを余すことなく使うつもりだった。よって、調理台の上にはさまざまな野菜と調味料が並んでいる。

「なんか、本格的ね」
「折角だから美味しいものをと思ってな!」

 少しだけ得意そうに明歌は言って、一番熱の通りにくい野菜から炒めていく。油が弾ける、軽快な音が響いた。

「やっば、早く食べたい」
「後少しの辛抱よ。藍の字、かき混ぜすぎぞ」
「あーっと、ごめんなさい。次は豆腐だっけ?」
「その前に味噌よ。でもまだ早い故、そのまま野菜を煮ておれ」
「りょーかい」

 藍梨は言って、時計をちらりと盗み見た。ちょうど、三時間目も終わりに近い。完成するのは四時間目に入ってからだなと予想して、そこでふと思いつく。

「ねぇ、テストって完成したらおしまいよね?」
「そうだが、何だ?」
「ふっ、完成品を花野(はなの)に写メで送ってあげようと思って」
「またか……花野が怒るぞ」
「あの子、本気で怒らせると手がつけられないけど、こういう冗談で怒らせるとホント楽しいのよ? アンタも今度やってみなって」

 ケタケタ笑う藍梨に、明歌は苦笑いをする。
 フライパンの中では、色とりどりの野菜が踊っていた。
作品名:調理実習 作家名:狂言巡