夢と少女と旅日記 第3話-2
昨日の日記には書いてませんでしたが、昨夜はティアナさんの家に泊まらせてもらいました。翌朝(――つまり今日の朝)目覚めたあとに、ティアナさんから謝礼として5万Gあげると言われたのですが、それはフローラル家復興のための資金にすべきだと思ったので断りました。
それならせめて、あと一泊くらいしていってはどうかとも提案してくれましたが、厩舎に長い間パトちゃんを預けていたので、今夜引き取ると言いに行かなければならないと思い、それも断ることにしました。
ティアナさんとメシティカさんに別れを告げて、パトちゃんを預けた厩舎へ辿り着いたとき、エメラルドさんが話しかけてきました。
「ところでネルさん、ロレッタさんの家ってどこにあるんでしょうか。この町にあるのは間違いないようですが」
「んー、分かんないですけど、聞き込みすればすぐ見付かるんじゃないですか? ニュースにもなってるくらいですし」
などと話していたとき、厩舎で働く青年が声をかけてきました。
「ロレッタの家なら知ってるぜ。彼女はプロの競馬選手だから、ここいらでは有名なんだ。大きな大会の出場経験はほとんどないし、今は重い病気で寝込んでいて、ほぼ引退してるようなものだけどな」
「競馬選手……? ひょっとしてロレッタって、ロレッタ・ローリングスさんのことだったんでしょうか……?」
「なんだ、知ってるじゃないか。よその町の奴で知ってるなんて、相当なマニアだぞ」
確かに大の競馬マニアですからね、私。言われてみれば、騎手名鑑で名前を見た記憶はありました。
「ニュースには苗字は載ってませんでしたよね」とエメラルドさん。
「それで、重い病気って、エターナルドリーマーのことですか? それなら私が――」
「ああ、今はそっちもだが、そうじゃない。俺が言ってるのは心臓病の方だ。何年も前から患っていて、今この瞬間に亡くなったとしてもおかしくないって話だぜ」
――いつ亡くなったとしてもおかしくない。私とエメラルドさんはそう聞いて、一刻も早く夢魔を倒さなければならないと思いました。正直、ティアナさんよりも先にロレッタさんのところへ行くべきだったと後悔しました。
厩舎の青年に場所を聞いた私は、教えてくれたお礼とパトちゃんは今夜引き取るということだけ伝えて、早速ロレッタさんの家に行きました。チャイムを鳴らして出てきたのは、ロレッタさんの母親でした。
曰く、エターナルドリーマーであると診断したのは、元々ロレッタさんの心臓病の主治医だった方のようです。また、昨夜から苦しそうに汗を掻くようになったとのことでした。
そんな状態でも自宅で寝かせているのは、病院ではなく自宅で死にたいという本人の希望があったからだそうです。そして、現状では今夜が山かもしれないとのことでした。
――それでも。いや、だからこそ、一刻も早く夢魔を倒さなければならないと思ったんです。3日連続のダイブはさすがにつらいかとも思いましたが、そんなことは言ってられません。多少無理してでも行かなければと、私は意を決して3度目のダイブをしたのでした。
作品名:夢と少女と旅日記 第3話-2 作家名:タチバナ