突発的御題募集駄文集
Part.3
これは、夢の話。
それは奇妙な夢でした。
まるで、誰かの夢の中に入り込んでしまったような。
自分のものではない物語に登場しているような。
場所は、神社の境内。どこかで見たことがあるような、まったく見覚えのないような、そんな場所。
どこかから、蚊取り線香の香りがふうわりと流れてきて、ああ、今は夏なんだな、とふと思いました。
気づけば私は、いつものマントも洋服も身につけておらず、ただ、どこかの誰かが着ているのを見たことがあるような、浴衣を身に着けているのでした。
この、奇妙な既視感ばかりが募る状況に、あ、これは夢なんじゃないかな、と心のどこかで思い至った時。
ふと、どこかから柑橘系の爽やかな香りが漂ってくるのに気が付きました。
「…レモン?」
その香りを追って境内を歩いていると、それほど広くはない神社のさらに隅のほう、切り株のようなものに座っている男性を見つけました。
彼は、オーダーメイドと思しき特徴的なスーツを着こみ、赤い山高帽をかぶっていて、そして、手に持ったレモンの皮を、ナイフ一本で器用に剥いているところでした。
「やぁ、こんにちは」
彼は私に気づくと、にこりともせずにそう言いました。
「こ、こんにちは」
「……」
「……」
「……あ、あの」
「はい?」
「ええと…何をしてらっしゃるんですか?」
「見ての通り、レモンを剥いています」
「……はあ」
「……」
「……」
「……剥き終わりました」
「あ、はい」
「食べますか?」
「え?! い、いえいいです」
「そうですか」
そう言って男性は、剥いたばかりのレモンにかぶりつきました。
見ているだけでもこちらの顔が歪むのがわかります。
ですが彼は、酸っぱそうでもなければ美味そうでもない、なんとも不思議な表情で、そのレモンを食べ進めていくのです。
と、それに合わせて辺りが少しずつ陰っていきました。
見上げると、太陽が少しずつ欠けていくのが見えます。
日蝕…でしょうか。
目の前の男性がレモンを食べるのに合わせて太陽が欠けていくように見えるのが、とても奇妙で…
この何とも言えない奇天烈な感じは、いよいよ夢に違いありません。
でもこの人は誰だろう…この神社だって来た覚えはないし。
「あれ、あんたなんでいるんだ?」
と、そこへ、背後からよく知った声が飛んできました。
振り返るとそこにいたのは、およそ忘れようのない彼。
おそらく最も特徴的な姿をした、銀の髪の彼がそこにいました。
あぁ、彼がいるのだったらこれはもう夢確定です。
自分の夢ではない感じがしたのだって、これで説明が付きました。
「なぁ、なんでここにいるのかって聞いてんだけど」
「クロにわからないことが私にわかるわけないじゃないですか」
私がそう言うと、彼は頭を抱える仕草をしました。
「やぁ、こんにちは」
背後から、男性の声。
再び振り向いたそこには、面白そうな笑みを浮かべた男性の顔がありました。
その手には、すでに何も持っていません。
ふと空を見上げると、そこにはすでに太陽が戻っていました。
「こんにちは。待たせてすみませんね」
「かまいませんよ」
「そんなわけで俺、その人と話あるから帰ってくれない?」
「帰って、と言われても…どうやって来たかもわかってないんですけど」
「なんか、目が覚めるように願ってみるとか」
「それがあんまり覚めたいと思っていなくて。ほら、この夢面白いじゃないですか」
「……しょーがない、わかったわかった」
彼は面倒くさそうにそう言うと、虚空から傘を取り出し、体の前で構えました。
「…え、まさか」
「だいじょーぶ、夢だから。痛くないから」
「ちょ、ちょっと待」
「はいさよーならっ」
クロが傘を振りかぶり、無抵抗の…というか抵抗しそこねた私の体を袈裟掛けに斬り下ろしました。
「で、そこで夢が覚めたというわけです」
「ウン、聞イテミテ思ッタケド、他人ノ夢ノ話聞クノッテほんっとー二面白クナイネ」
「あなたが自分から催促したんでしょう!!まったく!!」
(使用お題:レモン・エクリプス・蚊取り線香・神社のすみっこ・浴衣・刀)
*なにしろ文章を書きたくなった原因がKKTV5ですので、どうしても出ていただきたくてポツネンさんにご登場いただきました。
*ほかは自前のキャラクターですが、彼らがポツネンさんと会話するとたぶんこうなる。
*どうも私は、何も演じていない時のポツネンさんには能面のようなイメージがある。なんなら何かを演じていても若干能面のようなイメージがある。
作品名:突発的御題募集駄文集 作家名:泡沫 煙