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夢と少女と旅日記 第3話-1

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 L.E.1012年 5月3日

 私が夢を見なくなったのは、両親を失ったあの日からだ。それまではどんなにつらくても、夢をまだ信じていた。きっとまだやり直せると。すぐにまた、家族みんなで仲良く暮らすことができると信じていた。そんな幻想が打ち壊されたのがあの日だった。私は信じたくない現実を突きつけられたんだ。
 身寄りのない私は、すぐに孤児院に入ることになった。私を拾ってくれた孤児院の先生は、まあ今から考えればいい人だったとは思う。だけど、私は孤児院での生活によって、自分の心が腐っていくように感じていた。
 先生から教えられることは、綺麗ごとばかり。現実が見えていない。素直に信じられるほど、私は純粋な心を持っていなかった。
 信じていれば、また夢を見れたのかもしれない。だけど、私は現実を否定したくなかった。現実を信じたくはなかったけど、私が理解しなければ誰にもあの事件を理解することはできないと思ったし、今でもそう思っている。思い出したくない過去だけど、忘れたくもない。
 私は現実と向き合わなければならない。失った両親が帰ってくるわけじゃないけど、それでも現実から逃げるわけにはいかない。大好きだった両親のために。彼らが何を考えて生きていたのかを理解するために。
「過ぎたことは忘れて、前を向いて生きなさい」
 ――言いたいことは分かる。だけど、私は後ろ向きに生きてるわけじゃない。夢物語を信じることだけが前向きに生きるということではないはずだ。現実を受け入れた上で、前向きに生きていく。それが私の両親の死を無駄にしないことだと信じてる。
 とは言え、あるいは私はまだ夢を見ているのかもしれないとも思う。――両親同士の殺人事件、あるいは心中事件。それを事実として受け入れながらも、両親の心を信じて生きている。それはもしかしたら、彼らがあんな事件を起こしたのは何か得体の知れない者にとりつかれたせいだと信じて生きているということかもしれない……。
 ――考えても答えは出ないですね。あれを直接見て、しかも既に10年も経っているのに、私の中ではまだ決着がついてないですから、もう一生かけて考えるしかないのかもしれません。私の胸のロザリオに籠めて、一生背負っていくべき問題です。
 ともかく私は過ぎ去ってしまった過去だって無駄ではないし、どんなにつらい過去だって未来に向かって歩くための糧になると信じてるんです。過去を無駄にしないためには、現実を見て生きていくしかないんですよ。
 閑話休題。まあ、私の過去なんかどうだっていいです。それよりも今日の出来事をしっかりと書き留めること、それが今私がやらなければならないことだと思ってます。過去を無駄にしないために、彼女の想いを無駄にしないために、今日私が見た現実をここに記します。