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食堂裏話

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 料理番の通称・食堂のお姉さん――明歌(あきか)はレシピの資料をめいいっぱいひろげて、それぞれの面面を頭に思い浮かべました。

 月曜日の夏季学園。
 棗(なつめ)と夏生(なつお)は食欲の面ではさほど問題ないでしょう。味も何もあったものではないような食べ方をするけれど、まあそれはご愛嬌のうち。確か明日は、いつもより遅く帰ってくるでしょうから、大盛りのオムライスやカレーライスを用意しておかないといけません。

 火曜日の春季(しゅんき)学園。
 何より心配なのは、いつも麺類ばかりすすっている梅月(うめづき)兄弟です。体力勝負の部活動に勤しんでいるというのに、たんぱく質が豊富な肉類などは三日に一度の割合でしか食べません。しょうがないから、天ぷらか何かを用意して無理矢理付け合せにしようと、明歌は結論付けました。

 水曜日の秋季学園。
 菊子(きくこ)と椛(もみじ)は、最近肌荒れがひどいとぼやいていました。しかも、この季節は寒暖差が激しく、体調の方もあまり芳しくなさそうです。幸い、彼女らの故郷は健康食品の宝庫のような土地柄です。この日は、故郷を思い出せるような食事を用意してあげようと思いました。
 シンプルに細かく砕いたお米だけのお粥や、薬草の入ったスープ。旬であるオクラを使ってもいいかもしれません。オクラには、眼や皮膚、粘膜の健康を守り、免疫力を高める栄養成分があるからです。食物繊維を摂らせるために、飲み物も林檎とパイナップルのジュースなどを食後に出しておきましょうか。もちろん、彼女たちが食べやすく消化にいい、美味しいものとして作る自信は十分にあります。

 木曜日の冬季学園。
 美術部の玄英(げんえい)は、何かに没頭しはじめると食事を面倒くさがる傾向がありました。幸いにも好き嫌いは全くないのですが、調査や執筆をはじめると一日一切食事を摂らないなんてざらにあり、それは気がかりです。
 ライ麦パンかベーグルに肉と野菜をたくさん挟んで、サンドウィッチを作ってもたせておかないといけません。
 そういえば、冬季の野球部が全国大会の出場が決定したらしく、何かサプライズ差し入れを企画しておきましょう。

 金曜日。毎週この日は彼女の食堂ではなく、校内の喫茶店で働きます。週末なので人が生徒教師関係なく集まり、彼女は昔懐かしから斬新なアレンジを加えたお菓子やお茶をふるまうのです。
 今回はクッキーとパンケーキ中心で、『絵本から学んだスイーツ』を出す予定です。

 ――やれやれ。考えれば考えるほど手のかかる子ども達です。それでも注文してくる時や食事をしたあとの、彼らのあの嬉しそうな、満足そうな表情を見れば、疲れなんて吹っ飛び心もむしろ和むもの。
 明歌はそこでようやくノートから目を離し、眼鏡を外して大きく伸びをしました。明日も早いですから、そろそろ眠った方がよいのです。明歌は電気を消し、ベッドに潜り込みました。
 明日も、誰かに幸せを届けるために。
作品名:食堂裏話 作家名:狂言巡