お呪い
お呪い
白い部屋はタイクツだったから、ボクは紙飛行機を作って飛ばしていた。
前は鶴とかも折れたはずだけど折り方を忘れた。まあ、鶴なんてツバサがあるのに飛べないから作ったってどうせつまらない。
赤い紙で作った紙飛行機をベッドの上から飛ばす。
でも、それは自分が飛べることを知らないみたいにすぐに下を向いてポトリと落ちていく。
何度やっても同じだった。
本当はもっと違う折り方があったはずだ。それなら本物の飛行機みたいに真っ直ぐに前を向いてどこまでも飛んでいける。たしか小さい頃にお父さんに教えてもらって友達にジマンしたことがあった。
でも、お父さんはもうずっと前に死んじゃったってお母さんが言っていた。たぶん、ずっと前のことだから忘れちゃったんだ。
もう一度紙飛行機を作ったけど、やっぱりすぐにツイラクしていく。
この紙が小さすぎるのもダメなんだと思う。前に作った時はもっと大きかった。
「折り紙で遊んでいるの?」
いきなり声がしたのでちょっとビックリして見ると、扉が少し開いていてロウカに立っている女の人がボクを見ていた。
男の子が折り紙で遊んでいるなんてカッコ悪いかなと思ったけど、ボクがしぶしぶ「うん……」と答えると、その人は「その折り紙は誰かにもらったの?」と言いながら部屋に入ってきた。
黒い髪が長いお姉さんだから知っているお姉さんかと思ったけど知らないお姉さんだった。
「白い人にもらった」
「白い人? ああ、看護師さん?」
「うん……」
呼び方は忘れちゃっていたけど、ボクはうなずいた。
「あの人は来た?」
「あの人?」
「ほら、私みたいに髪が長い女の人」
そのお姉さんなら知っている。一度だけこの部屋に来てボクの顔を見ながらすごく泣いていた。キレイでカワイイお姉さんだなあと思ったけど、その顔はもうあんまり思い出せない。
「うん、来たよ。一回だけ」
「そう、でも、あなたは彼女が誰なのか分からないんでしょ?」
雨の日のアジサイみたいな紫のワンピースを着たお姉さんがニタリと笑う。
「分からないっていうか……知らない人だったよ」
「いいえ、あなたは知っていたわ。あなた達は結婚を約束する仲だったんだから」
「…………」
「でも、一度しか来ていないなんてちょっと薄情よね。所詮はその程度の愛情だったということかしら?」
この人は何を言ってるんだ? もしかしたら頭の病気なのかもしれない。ボクもちょっとした頭の病気だっておばあちゃんみたいな顔をしたお母さんが言っていたけど、この人みたいなのはお医者様でも治せないかも。
「あなたは病気じゃないわ」
ボクの心の中を覗いたその人が勝ちほこったように見下ろす。
「それは私のオマジナイよ」
そう言いながら落ちていた紙飛行機を拾う。
「あなたが最後に言った言葉を覚えている? 『俺のことは忘れてくれ』って言ったのよ」
広げられた折り紙が裏返されて、また別の形に折られていく。
「あなたが全てを忘れるまで、私はあなたを忘れない」
渡された折り紙は白い人のような形をしていた。
「じゃあね、さようなら」
女の人が泣きながら部屋を出て行く。前にもこんな風に泣いていた人がいたような気がしたけど、もう忘れちゃった。