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会話の練習をしよう

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放課後の寂れた教室で、かわいい後輩ちゃんと二人きり。一歩間違えば大人の階段を登ってしまいそうなそんな状況。なのにそういう展開になる気配が全然ないのは、俺が見上げた紳士である事が一つ、もう一つは彼女が手に持っているハリセンのせいだった。

「あのさ、一応聞いておきたいんだけれど。それなに?」
 恐る恐る、俺は目の前にいる後輩ちゃんにそう尋ねる。
「それなにって、先輩まさかハリセンをご存知ない?」
 後輩ちゃんは他人の無知さに素で引いたという表情でそういった。
「いやご存知だよ! なんでキミがこの場でそんなもん持ち出してるか聞いてんだよ!」
「だって、会話の練習ですもん、ハリセンがないとツッコめないじゃないですか」
彼女は俺が先輩になって初めて入ってきた後輩だった。しかも女の子。大切に扱わないといけない、けれど。
「なんで! 会話の練習なのに! ツッコミとかいるんだよ! というかなんで俺がボケ確定なんだよ普通に逆だろ!」
「それだと私が叩かれるじゃないですか。嫌ですよそんなの」

 そういって後輩ちゃんは無邪気に笑っていた。先輩である俺は肩で息をしていた。一体何でこんな状況になったのか。仮入部のレクリエーションとして始めた『会話の練習』は、一方的に俺が後輩ちゃんに押される形になっていた。

まず知っておいて欲しいのは、うちの部が決して漫才部とか落研とかそういうものではないという事だ。うちの部活は格式高い放送部だ。今現在の在籍生徒数が自分一人であることと、そのせいで廃部寸前である事を除けば、歴史ある由緒正しき部活動だ。故にボケもツッコミもいらないし、ましてやハリセンなんて存在すら知らなくていいレベルなのだ。

「せんぱーい。そんな怒ると桜のように毛が散りますよ」
「何その風流で残酷な表現! ひとの髪の毛を気軽にイジるの止めてくれない!?」
 この子は人の心をえぐる才能があるらしい。高校生の割に寂しくなってきた我が頭皮から、また一本髪の毛が別れを告げていく。
「ていうか私達って何をする予定だったんでしたっけ?」
「だから! 放送部での仮入部の活動として! 『会話の練習』で親睦を深めようって言ったじゃない! これもう会話のキャッチボールじゃないよ! どっちかっつーとドッチボールだよ!」

 一連の流れに飽きたのか、後輩ちゃんは部室を見回し始めた。自由すぎる子だと思うけれど、なんせ貴重な新人なのだ。仏のように寛大な気持ちで接しないといけない。

「二人でドッチボールって、なんか寂しいですね。ボール取りに行く人いないですよ」
「まあ、君が投げっぱなしで俺がひたすら取りに行ってる感じだけどね」
「そういえば私、この放送部って強豪校だって聞きましたよ」
その言葉に、改めて俺も放送室の中を見渡してみた。壁には沢山の賞状が立てかけられていて、どれもが優勝の文字。そしてやたらでかいトロフィーが狭い教室を占拠している。けれどそれらはどれも10年前以上の日付で埃をかぶっていて、最近の日付のものは一つもなかった。栄光の伝統は、俺の世代で途絶えようとしていた。

「残念だけど、うちの放送部が強豪だったのは十年以上前だね。最近は在籍部員俺一人、結果が出なけりゃ今年で廃部なんだ。青春したかったらオススメできない部活さ。今なら入部取り消しも受け付けるよ」
 先輩たちには申し訳ないけれど、絶望的なこの現状で、後輩ちゃんを巻き込むのは気が引けていた。だからこんなふうに、後輩ちゃんの前で弱音を吐いてしまった。我ながら情けないと思う。けれども正直な話、俺には彼女がこんな所でくすぶっているタイプには思えなかった。もっと何か、大きい事をしでかすタイプの子だと思えたのだ。
 不意に、後頭部に軽い衝撃と大きな破裂音がした。振り向くと、後輩ちゃんがこちらを見ていた。手には先程のハリセン。どうやら自分はハリセンで叩かれたらしい。

「先輩、立て直しましょう!」
「へ?」
「このさびれた放送部、私達でまた有名にしましょう!」
「立て直すって、たった二人なのにそんな簡単に行かないって」
「二人いれば出来る事は沢山ありますって! ネットラジオとか、地域イベントの司会とか、校内放送とか、部員を増やすとか、放送部の為に出来る事をどんどんやって行きましょう! そして将来私たちの世代が歴代最強と語り継がれるようにしましょうよ!」

 一体どこからそんなやる気が出てくるのか、胸を張って後輩ちゃんはそういった。意外と熱意を持った入部希望者だったみたいだ。むしろ俺のほうが元気づけられてしまったような感じで、少々きまりが悪かった。話している内容は突飛だし、自由すぎる感じだけれ
ど、後輩ちゃんと一緒なら確かに実現できるかもしれない。そう思った。

「それじゃあ、まずは何から始めようか」
 そんな後輩ちゃんは軽く背伸びをしたあと、悪びれもなくこう言った。

「じゃあ、まずは真面目に『会話の練習』をしましょうか」
作品名:会話の練習をしよう 作家名:伊織千景