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白昼夢にて、宇宙世界。

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「そうなんですか?」
「そうなの」
 頬を緩ませる先輩にそれでもいいですと幼い反論をすれば、また一際目尻を下げられる。思わず触れたくなる衝動をぐっと押さえつけた。
 嗚呼どうかその細められた目に、上がった口角に、少しでも自分と同じ思惑が潜んでいますようにと、今はただ幾千も流れていく星達に図々しいとは思いつつも、二つ目の願い事を口の中で唱えた。

「楠木。これは、夢なんだよ」

 いつの間にか閉じられていた瞼を開けば、前髪越しに萩原先輩が見えた。夢を見る前と同じ、両腕を枕にして机に突っ伏し、ニコニコと陽に当たりながらこちらを向いている。呆然として動くことのできない自分の口元を、先輩が指さした。「よだれ、垂れそうだ」
「はい。ゆめ、でした」口元を拭いながら、浮遊感に漂う頭で言葉を吐き出す。倦怠感等どこにも無いのに、何故だか体に重たさを感じた。独特な感覚に溜息が零れ出る。
 頭だけを動かして、生徒会室を見渡す。全ていつも通りの景色が、窓から入る風に揺られていた。重なったプリントが逃げ出した痕跡も無ければ大気圏外から発せられる音も聞こえない。それは奇妙な実感を伴って自分の胸にすとんと落ちた。諦めて、曲げていた首を戻して真正面を見る。寝癖のついた自分の頭を窓ガラスが薄く映し出していた。
「どうだった?」体勢を変え、椅子にもたれ掛かりながら先輩は問うた。見るとお揃いに先輩も寝癖を付けていて、それがひどく愛おしかった。
「綺麗かった、です」
「そっか。綺麗かったか」
「でも、本当にゆめ、でしたか」
「夢だよ。あんなものは、夢以外の何でもない」どことなく寂しそうな、ふてくされた雰囲気を含んだ言葉だった。そうじゃないと、少なくとも自分にとってあれは紛い物等ではなかったと根拠も何もない反論が口をついて飛び出す前に、「でも」と先輩は繋げた。それでいい、それがいいのだと、相も変わらない穏やかな笑みを浮かべながら、言った。

「行くことの出来ない現実より、行くことの出来る白昼夢の方が俺は好きだよ」
「机上の論理だって、溶け込んでしまえば、どこへだって」

嗚呼そう言った先輩の、月並みな表現だけれども酷く綺麗なさまに自分はいよいよ耐え切れなくなって、せめてこの衝動が、行動が、自分の国籍だとか育ってきた国の文化だとか両親から受けてきた教育のせいだとか色々諸々の言い訳で片付くものでありますようにと、今はもう一つも見えない流れ星に祈りながら、ただ自分の唇を萩原先輩のそれに重ねた。



どこか遠くから、燐光の音。