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D.o.A. ep.44~57

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Ep.44 遭遇




ざざん、ちゃぷ、と心地よい音が、絶え間なく耳元で繰り返される。
首から下はひんやりとしているためか、顔面が妙に熱っぽい。
一瞬だけ、何かざらりとしたものが、頬を撫でていって、ぴくりと目元が反応し動く。
けれど目を開くのも億劫なほど気持ちがよくて、まどろみながらたゆたう。




「……ーい」

くぐもった呼び声を、聴覚が拾い上げ、そして即座に捨てた。
うるさい、まだこの場所に浸っていたいのだ。

「おーいドザエモンか?生きとるんか?」

夢なのだ。放っておいてほしい。
―――否、よく考えろ。夢を見ているなら、現実とはなんだ。
自分は一体、何処にいた。今まで何をやっていた。
おーい。とやけに間延びした、聞き慣れぬイントネーションの呼びかけは、なお続けられる。
さらに、何かでわき腹あたりをつつかれている。

「おーい。死んどったら死んどるってハッキリ返事せえよー」
「…で、出来るかそんなことーッ!!」
「お。生きてた」
思わずかっと目をあけて起き上がり、反駁する。

―――眩しい。
視界に飛び込んできた白光に頭がくらりとし、反射的に目蓋をきつく閉じる。しかし、なお目蓋の裏がちかちかする。
眩暈のような感覚がおさまるまで、光を遮断するように、膝に顔を埋めていた。

「なあ、だいじょぶなんキミ?」
「…ッ、……ああ。もう、いい。平気だ」
まだ目の奥が疼くが、問題ない状態まで快復したので、頭を切り替えるように激しく振って覚醒させる。

強い日差しの太陽。からっとして暑い気候。真っ青な空にわきあがっている入道雲。
海鳥が空を切って悠々と旋回している。
首から下が浸かっていたのは水。体は砂浜へ打ち上げられていた。
水を少し舌に乗せると、塩辛い。それでは、この絶え間なく波打つものは、海であろう。
現実を把握しながら、同時に、じわじわと最近の記憶をとりもどしていく。
つまり、この地は―――最後に記憶している状況と、どう考えてもかけ離れた場所である、と。

オークを引き連れたクォード帝国の白い甲冑、名はロウディアといった。
血も涙もない悪魔のように冷酷なそいつは、あふれる憎しみのままに襲いかかってきた。
エメラルダは、ロウディアに刃を向けられながら、ライル、リノン、ティルの3人をその場から転移させたのである。

「…何処、だ…。ここ……どこだッ!?二人は!レーヤは、エメラルダさまは」
「うおわ!」

戦場から逃亡し、賢者に救いを求めたその先を思い出し、がばっと立ち上がる。
傍らにて見下ろしていた人物は、驚きのあまり声をあげたので、自然、そちらに視線がいった。
―――まったく、見知らぬ男だ。
棒切れを持ったバンダナ男が、三白眼を真ん丸にひらいて、腰を抜かしている。

「…え…、っと…。す、すまん、つい」
「いや、まあ、…元気そうで結構結構」
特に機嫌を損ねることもなく、むしろにかっと笑ってみせた男は、尻の砂を払いながら、差し出した手をつかんでくる。
浮かんでいる表情と、しっかり握られた手のひらに、悪い奴ではないな、と認識する。
立ち上がれば、目線は少しだけ相手が上だった。
見るからに陽気なその男は、一通りさっとこちらの姿を確認すると、首をかしげる。
「…なんや、見慣れん、えらい暑そーなカッコやね」
「あ、あんたこそ、聞き慣れない喋り方だ」
「お互いさんやろ」
あっはっは、と朗らかに笑い出され、確かに暑いな、と思い始める。
濡れた衣服がぴったりと肌にはり付いていて気持ちが悪い。
この気候ならすぐ乾いてしまうだろうが、海水なので痒くなるに違いない。出来れば洗って干したい。

「俺はジャック。ジャック=ルド言うよ。キミは?」
「ライル=レオグリット、ロノア王国ラゾー村出身、王国陸軍の二等兵だ」
あらためて手をかたく握り合った。
なんとなく癖で、軍隊での階級も付け足しておく。
「ほー、軍人さん。…聞いたことあらへんけど。で、何でこんなトコにうちあがっとるの」
出身地を明かしたものの、この男は、ロノアという国を知らなかった。
「そ、それは話せば長くなる…とりあえず、ここ、…何処?」

少なくともロノアの国領ではない。四季はあるが、ロノアの夏はもっとジメジメしていて蒸し暑い。
それに、トータスの今の季節は、少なくとも夏ではなかった。
季節が違うというコトは、かなりの距離があると考えて間違いなかった。
ジャックというこの男は、この近辺の住人であるようなので、ロノアからの距離はわからずとも、最低でも地名くらいは得られるだろう。
そんな期待を寄せるのだったが。

「さーなあ、ちょーっとわからんなあ」
「…はいぃ?」






作品名:D.o.A. ep.44~57 作家名:har