幽霊の契約
ちょっとした事で人は変われるコトも知らずに、
その日もいつものようにサワコが「生きたくない」とほざいていますと木陰から声がしました
「殺してあげようか」と不気味な笑い声と供に聞こえてきた
「えっ誰?」とサワコは恐れと驚きの反応をみせる
「うらやましいや~」と白装束をまとい額に白い三角形の布の女性が現れた
「あなた誰?」と再度サワコが尋ねた
「この格好を見て分かるでしょ、幽霊よ貴方死にたいんだったら半分死んでみない?私にその体貸してくれない?私が生前に残した未練を解決してから貴方に返すわ、良いでしょ?悪い様にはしないから」と言って幽霊はサワコにタッチした
「えっ何この格好」サワコは幽霊になっていた
体が透き通っていて血の気が冷めて身震いを感じる、まさに生きた心地がしない
そして目の前には紛れもなく自分が立っている
突然の出来事に不満気な顔をするサワコに対して、自分の格好をした他人がすぐ終わるからとなだめるのだった
サワコは不安を覚えながらも名前を尋ねる
自分の格好をした幽霊は「お夏」と言った
その日
家に帰るが母も家族の誰もが私の中身が入れ替わっていることに気がつかなかった、
それどころか母は「お夏さん」の入った少し明るみのある私に機嫌の良さを感じる始末だ、私の存在はこんなものかと知らされた気分でなんとも切ない、そして自分の体をしたお夏さんがベットで寝ているのをみながら、
「明日からどうしよう」とつぶやいて床に横になり
「私の部屋なのに床で寝るなんて」とぶつくさ言う
どうやら幽霊も寝るみたいだ、サワコは寝込んでしまった
翌日の朝
体が元に戻っていますようにと願いながら目をゆっくり開けた、しかしすべてが夢であるハズもなく体は透き通っていた
自分の格好をした幽霊の「お夏さん」は今日は忙しいからと言って出かける
サワコはお夏さんの後ろをついていった
お夏さんはシャッター通りの一角で足を止めた
そこでお夏さんは切ない表情を浮かべナニやら想いをめぐらっしていた
そして一言「絶対助けてあげる」と言い残してこの場所を後にした
私はお夏さんに色々と尋ねるが「いいからいいから」とはぐらかされて聞き耳を持ってくれない
それからお夏さんはアイスクリームを堪能する「生きてて幸せ~」とご満悦だ
「あのそのアイスクリーム私のお金なんですけど」私の抗議の声にも聞き耳を持たない、「私だって」サワコは幸せそうな顔をする自分でない自分を見て、私は自ら人生を楽しむコトに背を向けていただけなんだと気が付かされた、そうすると早く元に戻りたいと思った。
「でもこのまま戻れなかったらどうしよう」サワコはつぶやいていた
するとお夏さんが「生きたくなかったんじゃないの?」
「でも」サ ワコが不安気に答えると
「大丈夫返してあげる、だからちゃんと手伝ってくれればね」
「本当かな」
サワコが不安を抱きながら次に付いて行ったのは人気の少ない港で、そこに車が1台停まっていた
「こんな人気のない所に何の用だろう」とサワコが思っていると
「あの車の中の様子を覗いてくれない?」とお夏さんは私に言った
「覗くってどうやって?」
「今の貴方は幽霊でしょ、堂々と車をすり抜けて入れば良いじゃない」
「あっそうだった、でもどうして?」
「理由は後で話すから中の様子を報告して」
私はしぶしぶ車をすり抜けて中に入った
そこには男が三人いた
後ろの席にいる1人は全身を紐で拘束されて
残りの二人のうち1人は運転席 にいて小太りの口臭のきつそうな男が、助手席に座っている長身のロン毛のブサメンに「兄貴」と呼んでいた
「この状況って監禁事件」
私は車の中の状況を怒りぎみに報告した
「なに事件に巻き込んでるの」
「理由と苦情は後で、それより私が突入したら犯人を金縛りにあわせてちょうだい」
そう言ってお夏さんは突入していった
「ちょっと待って金縛りのかけ方しらない」
サワコの言葉も聞かずに入っていった
サワコが車の中に入ると犯人と私の格好をしたお夏さんが争っていった
お夏さんが「サワコはやく」って言っているのが聞こえる
サワコはどうしたら良いのかわからずアタフタしている
その時ロン毛のブサメンの犯人が銃を構えるのが見えた
サワコはやけになり「やめて」と叫び狂乱した
サワコが呆然と立ちすくんでいるとお夏さんの声が聞こえた
「サワコ良くやった」そう言ってくれた
「でも清十郎さんにまでかけろとは言ってない」
私の前には犯人を縛っている私の格好をしたお夏さんと、金縛りにあっている男がいた
「やっぱりあのシャッター通りの一角は但馬屋の跡地だったんですね」
「ちゃんと話て貰えますか?お夏さん、その男と清十郎さんとどういう関係なんですか?」
サワコがまくしたてると
お夏さんはその男を抱き寄せて「この人は清十郎さんの生まれ代わり、もう私の記憶は忘れてしまってるけど、もう一度この手で抱きしめたかった」
その男は頼りなさげでどちらかというと不恰好であった、サワコはお夏さんとその男が不釣り合いに思えてしかたなかった
お夏さんは神妙な面持ちで続けた
「私は但馬屋の当主の娘、いっぽう清十郎さんは但馬屋の使用人
当時は江戸時代、身分の違う者同士一緒になることが許されず
私達は駆け落ちしました、しかしすぐ見つかり捕まってしまいました
しかもあらぬことに清十郎さんは駆け落ちだけでなく、やってもいない盗みの罪までかぶせられて
牢獄中死んでしまわれたのです、私は悲しくて悲しくて成仏出来ませんでした
そしてやっと見つけたのです、清十郎さんの生まれ変わりを、あんなに愛し合ったのです。すぐわかりました」
「そして私は彼が借金取りに今日この場所にこの時間に来るように脅されているのを知りました、今度こそは私の手で助けてあげる
私の中の気持ちは膨れあがったのです」
いつの間にかサワコは自分の体に戻って男を抱きしめていました
そして
目の前には幽霊のお夏さんとキリッとした時代劇に出てくる二枚目役者のような男が立っていた
サワコは二人のお似合いの様子からその男が清十郎さんだという事が分かった
そして
二人が仲良く昇天していくのを見送った
今日は良く晴れた1日だった、サワコの晴れやかな表情が物語っているように