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あんかけチャーハン

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お母さんは、今日、朝からお友だちとおでかけだ。お父さんも、土曜日なのに会社へ行った。いま家には小学5年生の私と、高校2年生のおねえちゃんしかいない。あと、ねこのロロもどこかでひなたぼっこしながら寝ているはず。
 おねえちゃんはもうお昼の12時をすぎたのに寝ている。お母さんがいないからだ。わたしはちゃんと7時に起きて、食パンをトーストにして、マーガリンをぬって朝ごはんも食べた。
 それから宿題をした。思ったよりはやく終わったから、昨日借りてきたDVDをみた。おねえちゃんもたぶんあとでみるだろうけど、寝坊しているバツとして、起きてきたら「おはよう」と言ったあとに、この映画の結末を言おうと思う。
 お昼ごはんは、おかあさんがチャーハンを作っていってくれた。おねえちゃんを何度か起こしに行ったけど起きないので、もう、一人で食べようと思う。さっきの映画で、もう一回観たい場面があるから、そこを観ながら食べよう。
 チャーハンはお皿にキレイに丸く盛ってラップがかけてある。それに、おなべに野菜たっぷりのスープも。チャーハンは電子レンジで温めて、スープはちょっとだけコンロで温めてってお母さんが言っていた。ふだん、一人ではコンロにさわらないので、少しこわい。うちは電気ではなくガスコンロだから、ぐっとしばらくスイッチを押してやると、カチカチカチっと音がして、ボッと火が点く。赤い火より、コンロの火みたいに青いほうが熱いと、いつかの理科の授業で習った。しばらくすると、スープの表面にぷくぷくと泡が出てきた。おたまでかき混ぜる。ちょっとだけ手元が熱い。スープがあったまってくると、いい香りがしてきた。たぶん、いつものトリガラスープに、しょうゆとかで味付けしたスープだ。そろそろかな、とまたスイッチを押して火を止めると、ふわっと湯気がスープから出た。これは理科では習ってないけど、どういう仕組みなんだろう。どうして、火を止めたとたんに湯気が出るんだろう。
 スープをお皿に入れようとして、チャーハンの存在を思い出した。おたまを置いて、チャーハンをレンジに入れる。たしか40秒くらいって言われていたと思う。その40秒の間に、スープを入れれば、お昼ごはんはカンペキだ。
 もう一度おたまを手にとったところで、前に料理番組でみたものを思い出した。チャーハンに、トロトロのスープをかけていた。そう、ちょうど、このスープのように、たっぷり野菜が入ったスープだったはず……
 チン! と電子レンジが鳴る。背中にシビビッと電気が流れて、口のなかに甘いヨダレがじゅわっと出た。
 ……これは、神様のお告げだ。私は、そのトロトロのチャーハンを、いまこそ作るべきだ!
 あの番組では、何を使ってスープをドロドロにしていたっけ。仕上げに、たしか、白い粉を入れていたような。小麦粉ではない気がする。でも、小麦粉以外に、白い粉なんてあったっけ。
 ほったらかしにされていた電子レンジが、中身を出してくれともう一度鳴った。お皿が熱くなっているから、布巾で手をカバーして運ぶ。テーブルに置いて、ヤケドしないように気をつけてラップを取ると、湯気と一緒にとてつもなくおいしそうな香りがした。これにトロトロがのれば、ぜったいおいしい。
 もう一度、台所をぐるっとみる。お塩ではない。クリープでもない。そうすると、やっぱり小麦粉だろうか……。
 そのとき、ゆっくりと階段をおりる音がした。チャーハンのにおいにつられて、おねえちゃんが起きたらしい。こうなったら、年上にお願いしよう。
「おねえちゃん! トロトロのスープってどうやるの?」
 頭がぼさぼさのおねえちゃんを、無理やり台所につれこんだ。おねえちゃんはあくびをしながら、「トトロ?」なんてつぶやいている。
「ちがうの、トロトロ。前にテレビでやってたの」
「……ああ、あんかけチャーハン」
 あんかけがなにかはわからなかったけど、おいしそうな名前だから、たぶんそれだと思った。うなずくと、おねえちゃんは「カタクリコだねえ」と言って、戸棚をあけた。
「カタクリコって、白い?」
「うん、白い。きゅっきゅしてる」
 おねえちゃんはパックに入った白い粉をだした。それを計量カップに入れる。「さわっていいよ」と言われたので、人差し指でつついてみた。たしかに、小麦粉よりきゅっきゅしていた。
 おねえちゃんはそこに水を注いで、台所に置いてあるおはしでかしゃかしゃと素早く混ぜた。
「スープ、もう一回火点けて」と言われたので、カチカチカチっともう一度やった。おねえちゃんが水道のところからカニ歩きでコンロの方へ来たので、私も横に一歩ずれた。おねえちゃんは、スープをおはしでかき混ぜながら、水にとかしたカタクリコをゆっくりとスープに入れた。くるくるっと何度かかき混ぜて、さっと火を止める。すると、スープはおねえちゃんがかき混ぜるごとに、トロトロになった。
 おねえちゃんは、おなべごとトロトロのスープをチャーハンの乗っているテーブルへ持っていった。私は、ドキドキしながら後をついていく。持ってきたおたまでトロトロのスープをすくうと、おねえちゃんは丸を書くように、それをチャーハンにかけた。チャーハンが、トロトロになった。光っている。どこからどう見ても、おいしそうだった。
「あんかけチャーハン、完成~」
「すごい……。おいしそう……!」
「あったかいうちに、先に食べてて。私、顔洗ってから食べる」
「ありがとう! じゃあ、いただきます!」
 おねえちゃんは、洗面所へと消えた。ねぐせで猫背だったけど、なんだかかっこよく見えた。
 今日は、映画のネタバレはやめておこう。おねえちゃんが戻ってきたら、また最初から一緒に観よう。そう思いながら席について、もう一度「いただきます」と手を合わせた。
 憧れの、トロトロの、あんかけチャーハン! 今日はなんていい日だろう!
作品名:あんかけチャーハン 作家名:ちず