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かざぐるま
かざぐるま
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ビッグミリオン

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 プロローグ 


 月の綺麗な夜だった。
 しんと静まり返った横浜港の貨物置場の中に、何の変哲もない赤いコンテナが置かれている。
 夜中の二時を回った頃、その中から複数の人影が極度に何かを警戒する様子で出てきた。月明かりに照らされたその洋服の黒い染みは、まるで血のようにも見える。しばらくすると何やら口論しているようだったが、やがて闇に溶け込むように姿を消していく。
 この様子を録画しているのは、絶妙な角度で取り付けられた監視カメラだけだった。だが不思議な事に、中に常駐しているはずの警備員が色めき立つ気配は無い。映像は確実に管理室に流れていたはずなのに。
 この時に〈限っては〉何も……そう、もっと明らかな犯罪さえも問題にならなかった。



 二〇一九年 四月 ラスベガス 数週間前


 俺は、ラスベガスのパラッツォ・リゾートホテルにいた。なぜこんな所にいるのかと言えば、一言で表すなら〈人生を変える〉ためだ。その為には与えられたあるゲームの課題をクリアしなければならなかった。
 その課題とは……。ここラスベガスで『五十万ドル』を二倍に、単純に『百万ドル』にすることだ。
(なあんだ、簡単じゃないか。たがが二倍だろ?)と最初は考えていたが、それは大きな間違いだと気付くまでにそう時間はかからなかった。
 大金が絡むと、何が起こるか分からない〉という事を煙草の煙が漂うこの場所で、いま俺は身に染みて感じていた。

 ホテルのビーチサイドが賑わう午後二時、まだ人の少ないBARの片隅で俺とあずさは最終作戦の打ち合わせをしていた。
「謙介さん、今現在のチップを現金に換算すると、約七十五万ドルあるわ。うーん、だいぶ稼いだわね。でもこれを今夜までに……か」
 綺麗な脚を組み替えながら、カウンターテーブルのマルガリータに口をつける。俺の前に座っているのは、まだ二十歳になったばかりだと言うのに、時々妙に大人の色気を感じさせる娘だ。
 謙介さんと呼ばれた男はもちろん俺だが、この時は少し気になる事があり彼女の話から気が逸れていた。
 その原因は一枚のメッセージカードだった。これはさっきこの店に来る前に代理人と名乗る黒服の男から渡されたものだ。そのカードには、意味深な英語でこう書かれている。
【The die is cast. G】
【サイは投げられた】の後に『G』と謎の署名がしてある。だが……このGを思わせる人物に心当たりは全く無かった。
「ん? いくらだって?」
「七十五万ドルよ。ちゃんと聞いててよ」
 あずさはふくれっ面で答えたが、その目はどこか優しさを帯びている。この数日間のマネーゲームで、こんな時の俺は何か大事な事を考えているのを知っていたからだろう。
「実はさっきさ、誰かがメッセージをくれたんだ。ひょっとしたら今夜、誰かがデカい勝負を挑んでくるのかもな」
「ふふ。望むところよ。『セブン』は絶対に、負けないわ」
 白い歯を見せながら彼女はニコッと笑った。
 それを見て何故か肩の力がすうっと抜ける。この無邪気な笑顔に俺はどれだけ今まで助けられたことか。
「それにしても、あいつ遅いなあ」
 あずさの勝ちを確信したかのようなまっすぐなまなざしが眩しくなり、腕時計に目を逃がす。もうここに来て一時間以上が経過していたが、このチームの三人目のメンバーはまだここに来ていなかった。
 このホテルのBARは賭ける事に疲れた人たちも多いようで、観察しているととても興味深い。火の点いていない葉巻を咥えたまま、カウンターで頭を抱えているあの紳士も、昨日までは女たちを派手にはべらせていたのかもしれない。まさに天国と地獄が交差する街であった。
「お待たせ! 出国手続きの段取りをしていて遅くなった。わりい!」
 ドアを開け大股で近づいて来るこの男の名前は、紫苑(しおん)だ。整った顔をした二枚目で、白いスーツを自然に着こなしている。コイツからは常にモテるオーラが出まくっていて、まあ実際モテるんだが、酔っ払うと「今までね、俺、人を本気で愛したことが無いんですよ」としつこく語り出すのが面白くもあり、また少し迷惑でもあった。
 だが……俺たち三人が親しくなるにつれ、紫苑はどういう訳か得意のこのセリフをだんだん言わなくなっていった。

「ブラックジャックで勝負もいいが、最後はルーレットで行こうか。俺たち『セブン』にはもう時間が残されていない」
 残された時間を思い出させるように、俺は順番に二人の眼をじっと見つめた。帰国にかかる時間を考えると、今夜までには勝負を決めたい。 
 そう、俺たちのチーム名は『セブン』という。同じ条件で争っている10チームの内の7チーム目ということになる。
「三人がハイローラーテーブルでそれぞれ十万ドルを倍にすれば――計算上は百万ドル突破だけど、そう簡単にはいかないわよ。大金を賭けると注目されるし、謙介さん、赤、黒を確実に当てられる?」
「それは無理だ。ただカジノMGMやミラージュのVIPルームならMAXBETは十万ドルだから、そこなら目立たないし問題ない。けど、少し気がかりな事があるんだ」
「気がかりなことって?」
 ビールを一気に飲み干しながら、紫苑が怪訝な目線を送ってきた。
「これは俺のカンなんだが、三人ともピットボスにそろそろ目を付けられている気がする。たぶんこれは気のせいじゃない。もしチームだとバレていた場合、賭けを受けてくれない可能性も考えなきゃいけないな」
 最近感じる謎の視線を思い出しながら、二人に警告した。 
 今回『ビッグミリオンチャレンジ』に参加したのは十組、つまり三十人だ。他のチームが今どれだけ稼いでるのかは分からないが、俺たちの資金は現在の時点で七十五万ドルを突破していた。もちろん、これまでただ漠然と賭けていたわけでは無い。次の画期的な方法を使って稼いだのだ。
 その方法とは、主にブラックジャックテーブルでの『カードカウンティング』という攻略法だった。 
 これはMIT(マサチューセッツ工科大学)のエドワード・ソープ教授が考え出した攻略法で、数学的にも立証されている。この『ゲームに使われたカードから残りのカードを推理する』という原理はごく単純なものだ。博士はあまりにも勝ちすぎてカジノをあっという間に出入り禁止になってしまったが、後に必勝法として本を出版し有名になった。
 この攻略法を更に証明するべく、後にMITの学生サークルが実践を行った。その結果は何と――〈五年間で数億円を稼ぎだした〉のだ。
 もちろん、これに対してカジノ側も手をこまねいていた訳では無い。最新の手法を研究し、今では掛け金の増減(メリハリ)と子の目配りなどから、ピットボスや一流ディーラーはこの攻略法をほぼ見破ることができるまでになっていた。それに伴い、カウントする器具などを使用してなくても、(頭の中で計算していたとしても)昨今は出入り禁止にできるルールに変わってきている。
 俺たちは今まで奇跡的にバレなかったが、もうこの攻略法は使えないだろう。もっとも、バレなかったという部分に対しては、影で大きな駆け引きがあったのだが、この時点では何も知らずに少し有頂天になっていた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま