宛先不明
目の前には車が何台も走る。暗い瞳の少女は、今にも道路に飛び出しそうだった。しかし、少女は歩み出さなかった。ポケットの中の携帯がバイブで鳴った。少女は差出人に遺言でも送ってやろうかと思って、携帯を開いた。少女はため息をついた。なぜならば、差出人不明のメールだったからだ。メールには
「我の血を分けしものよ、希望の光に手を伸ばしたまえ。生をつかんでいる者よ、絶望のみを見るな。」
とだけ書かれていた。少女は、自分のことも知らない人間にそんな知ったことを言われ、怒った。
希望の光・・・・。
そんなものは・・・・・・・・・・・ある。少女は、ソフトボール部の四番であった。彼女の希望は一本のバットだった。顧問に選んでもらった、黒に黄色のバット・・・。
少女は家に帰り、バットを握った。顧問とともに去っていった仲間との思い出がよみがえり涙がこみ上げた。少女は部屋の中だというのに、思い切りバットを振った。手の皮がぴりぴりと痛んだ。そして一枚の写真がバットに当たって落ちてきた。写真には弟と少女が写っていた。弟は先月、事故で死んだ。母は寝込み、父は浮気に走った。少女の悲しみは癒えることはなかった。そして今、再び、悲しみのしずくはこみ上げた。涙は止めどなく流れた。その時、携帯のバイブが再び鳴った。少女ははっとして携帯を開くと、また先ほどと同じ宛先不明のメールが届いていた。少女は急いで本文に目を通した。
「生きている者よ、命捨てる事なかれ。希望は生とともに歩んでいるのだから。
我の分も生きたまえ。君の名を忘れるな。」
少女はぱっと振り返ったが誰もいなかった。しかし少女はメールの差出人が生きたいという願いが叶わなかった弟であることを確信した。
少女は窓の外を見つめた。少女は顧問も仲間もいない部活で一からやり直す決意をした。一本のバットは少女の希望。折れることは今度こそないだろう。
少女は空に向かって、ありがとうとつぶやいた。
少女の名は未来ーみらいーといった。
END