初夏
その日、学校では友達が新品の太鼓を腰に巻きつけていた。数人と駆け寄って、新しいその響きを聴かせてもらった。低く流れる雲が運んでくるゆっくりとした影の中で、太鼓は楽しげに弾んだ。物に音に事に、はっきりとした輪郭が刻まれていた。
帰りの途、戻って来た道を思い出すかのような日暮れ。正しく数えられない想いは、白い衣装を纏う人に優しく促されていた。戸口に立った幾人かは、恭しく頭を垂れている。少し離れたところで見るその景色には、現れ始めた星と虚ろな山々の稜線も入り込んでいた。
風は、いつか途切れ途切れに懐かしむかもしれない時間に、初夏の匂いを混ぜ合わせていた。半分閉じかけた灯りに目の奥は静かに呼びかけられ、影の重なる気配は耳元に届けられた。やがて輪郭は忘れられ、指で数えられる程の固まりへと溶けていく。切り絵のような世界で、白い案山子が頭を垂れたままの鍬にそっと手を翳していた。