超絶勇者ブレイブマン その2
緋色道場は、緋色勇気の祖父である緋色堅吾(ひいろけんご)が師範を務める空手道場である。勇気は堅吾の教えと絶大なる才能によって、中学2年生でありながら高校の全国クラスと比べても、なんら遜色のない空手の実力を身につけていた。
勇気は空手だけではなく剣道もやっているが、こちらは初段を獲得している。もっとも中学2年生が取れる剣道の段位が初段までだからであって、本来の実力はそれ以上である。
また、武道だけではなく勉学でも、学年トップとまではいかないまでも、決して悪くはない成績をいつも残している。さらに心は優しく困っている人は見逃せない。
学校でも密かに彼に憧れる女子生徒が何人もいるほど、非の打ち所がないはずなのだが、彼は今、道場で堅吾に正座をさせられ説教を受けていた。
「勇気よ。わしがなんの話をしようとしているのかは分かるな?」
「はい、お祖父様――」
「道場では師匠と呼べと何度も言っておる」
「申し訳ありません、師匠。――愛ちゃんとのことだというのは、重々承知しております」
「彼女がいい娘であることは知っておる。お前と彼女は幼馴染だからな。交際をするだけならば、何も言うまい。だが、中学生にもなってヒーローごっこを続けているというのは何事か」
「何故中学生になったら、ヒーローごっこをしてはいけないのでしょうか」
「そういうものは普通は小学生で卒業するものだ」
「理由になっていません。普通でなければならないと言うのならば、実家が道場を経営しているということも普通ではありません」
「口答えをするな」
「納得できないことを納得できないと言っているだけです。師匠だって、筋が通らないことは嫌いなのでは?」
堅吾は、ふぅと溜息をついた。――無論、彼も分かっている。勇気が納得できるような説明などできるわけもないことを。
「勇気よ。お前は我が孫息子ながら、実に立派だと思っておる。中学の部活では空手部ではなく剣道部に入ったが、非常によくやっていると聞くし、部活で疲れているだろうに道場では懸命に空手の稽古をしている。
学業においても、悪くない成績を残しているようだ。数学だけはやや苦手であるようだが、人にはそれぞれ向き不向きというものがあるものだ。そのことについてとやかく言うつもりは全くない。
だが、年甲斐もなくヒーローごっこなどしていることだけは見過ごせん。我が孫息子がそのようなことをしていれば、わしも他の門下生に対して示しがつかぬのだ」
「お言葉ですが、師匠。仮に今からでも空手部に入れと言うならば、入ります。もっと数学の成績を伸ばせと言うのなら、今以上に勉学に励むつもりです。しかし、愛ちゃんとのヒーローごっこだけはやめるわけにはいきません。――彼女が望んでいる限りは」
勇気の瞳に宿るのは強い意志。尊敬する祖父に言われても、それだけは譲るつもりはないようであった。
「頑固さはわし譲りよの。愚息の優(まさる)など、軟弱なものだが。――まあ、今日のところはこれくらいにしておくか。それより早く晩飯を食べてきなさい。その後、空手の稽古をつけてやろう」
「はい、師匠。お願い致します」
勇気は立ち上がり、道場の入り口まで進み礼をした。そして、住家に向かって駆けていった。堅吾はただ、物思いに耽ることしかできなかった。
作品名:超絶勇者ブレイブマン その2 作家名:タチバナ