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夢と少女と旅日記 第2話-4

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 食事を終えた私はあたりを見渡してみました。舞台ではティアナさんと一人の男性客がダンスを踊っていました。他のパーティ客も思い思いにパーティを楽しんでいるようでした。
 私の場合はそうはいきません。いつまでもこんな夢の中で過ごすわけにはいきませんから。大臣ハバネロ、――彼がこの夢の世界に巣食う夢魔であることは明白でしたので、彼の姿を大広間で探しました。しかし、どうしても見つかりませんでした。
 仕方ないので、大広間の外を探そうと扉に近づいたとき、一人の執事が立ち塞がりました。
「どちらへ行かれるのでしょうか? パーティはまだ始まったばかりですよ、お客様」
「ええっと、トイレです、トイレ。そこどいてもらえますか?」
「外に行かれるのであれば、メイドを一人連れ添っていただきます。パーティの隙を狙って、宝物庫の宝を狙う輩がいるかもしれませんので。全てのお客様にお願いしていることなので、ご理解願います」
 これはおそらくそういう方便で、私が夢魔を倒すために何かを仕掛けないかどうかを監視するためでしょう。執事やメイドが大広間に集まってるからといって、宝物庫の警備が解かれているとも思えませんでしたし。
 おそらく強行突破も可能だったでしょう。しかし、どうしたものかと悩んでいると、再びティアナさんの声が聞こえてきたので、私はそちらに目をやりました。ティアナさんはいつの間にかダンスをやめていましたが、やはりライトアップされた舞台の上にいました。
「お集まりの皆さん、パーティは楽しまれているでしょうか? 食事やダンスをされながらでも構いません。どうか私の歌を聴いてくださいませ。この日のために練習してきたのです。それでは、歌います!」
 そう言って、ティアナさんは歌い始めました。透き通るようなその歌声は、パーティ客だけではなく、私やエメラルドさんもついうっかり聴き惚れてしまうほどのものでした。ティアナさんが歌い終わり、軽くお辞儀をしたときには私も拍手をして、ティアナさんの歌声を称えました。
 そして、続けて2曲目が始まりました。私がおかしいと不審に思ったのは、3曲目の歌が始まりかけたときのことでした。
「……いつまで続くんでしょうか?」
「え? 何がですか?」
「何がじゃないです! ティアナさんの歌がいつ終わるのかって聞いてんですよ」
 勘の鈍い妖精にイラついていたせいでしょうか。私は後ろにいる者の気配に全く気付いていませんでした。
「いつまでこの歌が続くのかと? ティアナ殿が死ぬまでですよ」
 声に驚き振り返ると、例の大臣、――いえ、夢魔がそこにはいました。
「正確に言えば、ティアナ殿の肉体が活動停止するまでですがね。この世界のティアナ殿が死ぬことはありませぬ。終焉を迎えるとしたら、現実世界で何かが起きるしかないというわけです」
「そうして、永遠にティアナさんの魂を貪り続けるつもりですか?」
 私が夢魔を睨みつけながらそう言うと、エメラルドさんも怒りを露にしました。
「そんなこと許しませんよ。早くティアナさんの魂を解放してあげてください!」
「……あなた方は少し誤解をされておりますぞ。見なされ、ティアナ殿の幸せそうな顔を。我々夢魔は人々に幸せになっていただきたい。ただ、その一心のみでございます」
「こんな作り物の幸せなんか、一体なんの価値があるって言うんですか。確かに私たちは夢を見るために生きています。だけど、夢を見させられるために生きてるわけじゃない! あなたはただ彼女に幻覚を見せているだけじゃないですか!」
「お分かりいただけないのならば、仕方ありませぬ。この世界からお帰り願いましょうぞ。……と言っても、素直に従ってはくれぬのでしょうな。ならば、力尽くでも貴様を排除するだけだ!」
 夢魔がそう叫ぶと、ティアナさんもようやく異変に気付いたようで驚きの声を上げました。
「大臣、何か問題でもあったのですか!?」
「申し訳ありませぬ、姫様。某の不手際でパーティに賊を招いてしまったようです。姫様は皆を連れてお逃げくだされ。何、心配には及びませぬ。某が賊を排除したあとはすぐにパーティを再開できましょうぞ」
「しかし、大臣――」
「お客様方の安全が最優先でございます。お願い致しますぞ、姫様。某を困らせないでくだされ」
 ティアナさんはそれでも何かを言いかけましたが、ぐっと飲み込み、パーティ客や執事やメイドを連れて大広間から急いで退室しました。
「さて、これで某も遠慮なく戦えますぞ。我々夢魔の本当の強さをお見せ致しましょう」