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戻らない時間【詩集4】

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月夜



遠い空のかなたに
小さな月がぽっちりと浮かんでいた

幼い男の子は月に手を伸ばした

どうして月には手が届かないの?
どうして月に飛んでいけないの?

男は幼子の頭を優しくなでた

空は鳥のもの
人は地のものだから
空へはいけないんだよ

人は大地に縛り付けられた卑小な存在なのだ
子供には言わずに
男は心の中でつぶやいた

天使ならあそこにいけるのかな?
天使は羽があるよね

ああ、そうだな
そういって男はまた子供の頭を優しくなでた

人間は天使になれないのかな
そうしたらきっと空を飛べるよ

人間はね、昔は天使だったんだ
そう言って父親は子供の肩に手をやった
ほら、ここに
天使の羽のなごりがあるだろう?

そう言って父親は子供のかいがら骨をなでた

ふうん、そうなんだ
どうして人間は羽がなくなっちゃったの?

……どうしてだろうな
それきり男は黙って
ただ子供の頭を優しくなでてやった

さ、もっと火のそばにお寄り
夜はまだ冷えるから

そう言ってたき火に新たな薪をくべると
パチパチと火のはぜる音がした
夜はひっそりと静まり返っていた

どうしてだろうな……

男はそう言って静かに空を見上げた
くらい夜空には星が黙って光っていた

月はもうどこにも見えなかった

作品名:戻らない時間【詩集4】 作家名:maki