クラウン
彼は僕にそう訊いた。
「いいや。無理だよ。できることならしてみたいけどね。きっと無理さ」
彼はおどけた顔でこう返す
「そうかな?そうだろうか?いいや違うね。できるさ。きっとね。
信じてみるべきだよ、少年くん。」
「たとえばだ。たとえばだよ。君は歌うことが得意かい?」
「ううん。僕は歌が苦手だよ。いつもみんなにバカにされるさ」
「そうか!そうか!それはちょうどいい!
さあ今からあの通りに立って歌を歌うのさ!この箱を持ってね、さあ!」
強引に手を引かれ連れていかれたとある通り。
僕は本当に歌うことなんてできないのに。
手には"チップボックス"と書かれた箱。
乱暴に地面にそれを置き、彼に文句を言おうとする。
だが、彼が見当たらない。
どこだ?
すると、声が聞こえてきた。
<さあ歌うんだ。できないことはないよ。やれるんだ。君にはほんの少しだけ勇気が足りないんだけなんだ>
僕はふと思ったんだ。
歌わなければ、と。
そうすることで何か変われるかもしれない、と。
僕は歌い始めた。
そうすると思ったよりもすらすらと言葉がでてきて、しばらくすると観客も集まってきたんだ。
そのうち僕の箱に誰かがコインを投げ入れた。
続いて何枚かコインが投げ入れられた。
僕は嬉しかったんだ。
いくらだろうと関係ない。
僕の歌に、僕のした事に、ねぎらいを感じてくれたのか!
なんて嬉しいんだ!
こんなことは初めてだった。
やればできるんだ。僕にもできたんだ!
勇気さえあれば僕にもできるんだ!
彼に言わなきゃ!
歌い終えた僕はみんなの拍手を背中に彼を探しに走った。
彼はすぐに見つかった。
通りに面したビルの屋上!
僕をずっと見てくれていたんだ!
と、瞬間。彼は飛んだ。
ビルの屋上から空中へ。
正確には落ちたんだ。
地面に叩きつけられる彼。
真っ赤な血で辺りが染まる。
何が起きた?
僕の手には"チップボックス"
観客から見えている面に書かれていたのは"募金箱/病気のこの子に手助けを"
なんだ。こんな仕組みか。
みんな僕を憐れんでただけか。
彼もひどいやつだったなあ