休日
休日はこうやってどちらかの家にどちらかが押しかけて一緒に過ごすことが多い。
といっても押しかけるのは俺であって、ぜんちゃんは俺が声をかけない限りうちには来ない。
たぶん変なプライドがある、というか自分の意思を口に出していいのかいまいち迷っているのだろう。そんな気なんて遣わなくていいのに。
「お前が決めろ」
ぜんちゃんがうちを訪れる時の常套句。
どうするの?と聞くと優柔不断な俺に聞くな、と言って俺に決断を押し付ける。
そういう時は決まってやりたいことが一致しているので、俺が一声かけるだけで結論がでる。
だが、本当にやりたいことがあるとき、ぜんちゃんは面白いくらい悩む。
「ううー・・でもなぁ・・・ああああ!でも!」と小声で散々呻くので、本当に悩んでいるときはわかりやすい。
でもそのままいつまで経っても結論がでないので、仕方なく俺が両方の選択肢のメリットとデメリットを述べた上で、「俺はこうしたほうがいいと思うけどね」この言葉を付け加えてあげるのだ。
コンビニでデザートを買うときなんかいつもこんな感じなので、さすがに俺もめんどくさくなって自分が食べたいほうを勧めたりする。
お前が食べたいだけだろ、と文句を言いながら結局一口分けてくれるぜんちゃんはやっぱり優しい。
部屋に上がったぜんちゃんは真っ先にコンビニで買ってきたものを袋から出してつまみ出した。
「またそれ買ったの?」
「別にいいだろ、好きなんだから」
ツーンとした返事をするぜんちゃんの手にはイチゴ牛乳のパックがしっかりと握られている。
この仏頂面と無愛想なオーラからは全く想像できないが、ぜんちゃんはかなりの甘党だ。
そしてそんな彼の最近のブームはイチゴ牛乳らしい。
自分がバイトしているコンビニで美味しそうなやつを発見して衝動買いして以来、すっかりイチゴ牛乳の虜のようだ。
コンビニを数件回っていろんなイチゴ牛乳を買い漁っては、これは安いのにうまいだの、値段倍以上するのにこれは牛乳の味しかしない!まずい!だの、律儀にひとつひとつ俺に説明してくれる。
が、残念ながら牛乳が嫌いな俺はさっぱり良さがわからない。
その旨を伝えると眉をひそめながら、
「あ?おっまえ・・・・・このイチゴ牛乳の良さがわかんねーの?」
と言ってイチゴ牛乳の良さを延々と語られたことがある。
呆れたようなぜんちゃんの顔を見ながらこっちも呆れていたのは内緒だ。
しかもだ、ぜんちゃんはイチゴ牛乳を飲むと必ずと言っていいほど腹を壊す。
俺も牛乳を飲むと腹を壊す性質なのでそれでは?と思ったが、しばらくしてそれは間違っていることに気付いた。
ぜんちゃんの場合、うまいうまいと言って一度にイチゴ牛乳を何パックも飲むのだ。
そりゃ腹も壊すわ。
また腹壊すだろうに、とぜんちゃんがイチゴ牛乳を飲む姿を見るたびに溜息をついて見せるのだけど、当の本人は全く気にしていないようだ。
じゅーっとイチゴ牛乳を啜り上げながらゲームに没頭するぜんちゃんを見て「それにしても似合わないなぁ・・」と思わず声を漏らしていた。
ゲームに集中していたはずのぜんちゃんが珍しく「あ?」と聞き返してくる。
「なに」
「いや・・・イチゴ牛乳飲んでる姿が似合わないなぁーと思って」
ぷくくと笑い声を漏らすとうるせーと蹴りが飛んできた。
いたいよと笑うとぜんちゃんはふんっと鼻息を荒くした。
「俺だって自分ににあわねーのくらいわかってるつの、でもな、似合う似合わないとか関係なく俺はイチゴ牛乳が好き!な!の!わかったかアホ」
「いっつもおなか壊すくせに」
「うるせーよ、おなか壊すくらいどーってことないの!むしろ壊すことは宿命だと思っている」
「おなか壊すために飲んでるの?うわーどえむだどえむ!」
「てめーに言われたくねーよ」
またもや笑いながら一蹴り入れられた。
その反動で脛を机の端にぶつけてしまい、反論しようとした俺の言葉は呻き声にならざるをえない。
ほーら喜べどえむ、と笑うと、ぜんちゃんはまたゲームに没頭しだした。
こうなると何を言っても「うるせえ、ゲーム音が聞こえないだろ!」と怒鳴られるだけだ。
俺は諦めて読んでいた漫画に意識を戻す。
ゲームをしているときのぜんちゃんは普段の2割り増しで喋り倒し、絶えずゲームへの突っ込みを行う。
だが、俺も本を読み出すと一気に集中して周りの音が聞こえなくなるタイプなので、ぜんちゃんの怒声や悲鳴などはお構いなしだから人のことは言えないな、なんて思わず笑みを漏らした。
そのまま明け方までゲームに集中していたぜんちゃんは急に「眠い」と一言だけ発すると、俺のベッドから毛布を一枚剥ぎ取りそのまま床で丸まってしまった。
ゲームくらい消しなさいよ、と苦笑しながら声をかけるが、よほど眠かったのか「・・・・・・んー」という返事しか返って来ない。
まあいつものことなので俺も大して気にせず、ゲームを終了させて自分も布団に潜り込んだ。
明日は確かぜんちゃんはバイトなので、最低でも昼には起こしてやらないと。
目覚ましをかけようとしたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶は途切れていた。
音楽を聴きながた寝ていたにもかかわらず、ぜんちゃんが身じろぎする気配で目を覚ます。
我ながらすごい特技だとびっくりするくらい、寝ているときの感覚は研ぎ澄まされているらしい。
起きる時間にはまだ早い。
ぜんちゃんを見ると寒いのかずっとごそごそ動いているようだ。
仕方なく自分の分の毛布をかけてあげる。どうせこんなことでは目を覚まさない。
あくびを一つすると、ぜんちゃんのすーすーっという寝息をBGMに、俺はまた夢の世界へとダイブするため目を閉じた。
これが俺達の休日の過ごし方、なーんて。