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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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風の街の探偵事務所




季節は12月。
そろそろ冬の足音が聞こえる季節。
風の街、ここ風都ではクリスマスムードが漂いつつあった。
街のショッピングモールではプレゼントになりそうなギフト商品が店頭を彩り、赤と白を基調にした、サンタクロースを連想させるデコレーションがそこかしこで目に止まる。
その街の華やかさに中てられたのか、人々はこんな寒いにも関わらず楽しそうに街道を闊歩している。
街道では家族らしき一団や恋人と思われる男女二人組が手を取り合い、体を寄せ合って肌を刺すこの鋭い寒さをこらえていた。
お互いに身を寄せ合って歩くその姿は外の温度が非常に寒々しいものであることを想起させる。
はずなのだが、それは何故か、とても尊いものに感じられこの冷たい気温とは裏腹に心を温かくした。
寒さは人の動きを鈍らせるが、その分人と人とのつながりを深くするものなのかもしれない。
「・・・・・・フッ。おっといけねぇ。アットホームなモノローグはこのハードボイルドな俺には似合わないぜ」
風都のとある古びた玉屋『かもめビリヤード場』。
この2階にある探偵事務所、『鳴海探偵事務所』の窓際。
そこには一人の男が立っていた。
俳優のような整った顔立ち、年は20代の半ばといったところ。
1950年代調の渋めのスーツを着こなし、室内だというのに名優ハンフリー・ボガートばりのソフト帽を被り何やらぶつぶつ呟いている。
彼の名は左翔太郎。
珍しい名前だが偽名などではなくれっきとした彼の本名。
この探偵事務所に所属している腕利きの探偵だ。
翔太郎は窓から外の様子を眺めてはふっ、と溜め息をついたり、別にズレていない帽子をかぶり直したりしている。
「所詮俺は孤高の狼。・・・・・・このコンクリート・ジャングルの裏の道を歩く俺には、不釣合いな光景なのさ・・・・・・」
ぱこん!!
「あ痛てぇ!?」
その不自然に気取った空気をかもし出している翔太郎の後ろで小気味良い何かを叩く音が聞こえた。
叩かれたのは翔太郎の後頭部だった。
翔太郎の目の前に軽く火花がスパークし一気に現実まで引き戻される。
「ボソボソうるさい。てか、モノローグダダ漏れやないかい!」
元気のいい関西弁。女の子の声だった。
「全く。な〜に外見ながら気取っているのよ、翔太郎くん。そういうのはイイ男がじゃないと全然絵にならないわよ?」
そう言っているのはこの鳴海探偵事務所の家主であり所長である少女、照井亜樹子(旧姓、鳴海亜樹子)だった。
活発で人懐っこそうな顔。
赤いパーカーに黄色のTシャツ。下はジーパンという極めてラフな服装。翔太郎より頭一つ小さい小柄な体からは子犬のような元気さを感じさせた。
「・・・・・っ痛てぇな、亜樹子! 毎度毎度俺の頭をスリッパで叩きやがって。バカになっちまったらどうすんだよ!」
翔太郎は少し涙目になりながら身振り手振りを使って精一杯の抗議をする。
さっきの気取った様子とは異なり随分とへタレていた。
「あらやだ、この子ったら。自分は既に手遅れだってことに気づいていないのかしら?」
亜樹子はその様子をどこか楽しそうにオホホと笑う。
本人は大人っぽい仕草を演出しているつもりなのだがそのどうみても14、5の中学生にしかみえないその幼い容姿のせいで演出は半分の力も出せていない。
「へ、ガキのお前にこの良さが分かるわけねーじゃねーか・・・・・・」
翔太郎は小声でボソっと呟く。
「おりゃ!」
ぱこん!!
「はふん!?」
本日二回目の火花。ちなみに打撃音の正体はテレビ番組で使われていそうな緑のスリッパ。
つま先のところに達筆な字で「おりゃ!」と書いてある。
「う、おお。鼻血出るかと思った・・・・・・」
今度はやや衝撃が強かったのか翔太郎は叩かれた頭よりも鼻血が出ていないか気にしている。
「お、お前な〜」
「前にも言ったけど翔太郎くん。私はもう成人しているの。結婚だってしています」
そういうとキラッと左手の薬指にある指輪をみせる照井亜樹子。
その仕草にウザッと小さな声でコメントをする左翔太郎。
亜樹子はかまわず話を続ける。
「つまり私はオ・ト・ナの女性なワケ。レィディに対する態度がなっていないと犬に蹴られて死ぬわよ?」
「・・・・・・犬に蹴られたくらいで人間が死ぬか・・・・・・」
それを言うなら馬だろうが、と翔太郎はツッコミを入れる。
彼らの付き合いはもう随分長い。
亜樹子が結婚をする前からの付き合いなので出会ってからもう二年近くになる。
別段仲が悪いわけではない二人だが、お互いの主義・主張が噛み合わずどうしても相手に物申したくなってしまい前述のようなケンカ(?)になってしまう。
今ではこの言い合いが日常の些事となり、鳴海探偵事務所ではこれがなければ一日が始まらないほどに定番と化していた。
「何よ! 実際にチワワに蹴られて死んだ人っているんだから! 私の知り合いに3人くらいいるんだから!」
「すぐバレるウソをつくな!」
人の秘密を暴き危険な仕事を請け負う探偵業。
彼らのやり取りはそんな職業にはおよそ似つかわしくない、明るく朗らかな光景だったが、今ではこれが鳴海探偵事務所の味の一つであるといえた。
ここ鳴海探偵事務所はこの風の街、風都で古くから探偵業を営んでいる私立の探偵事務所だ。
今から3年ほど前に死去してしまった初代所長である鳴海壮吉は街ではトップクラスの探偵としてその名を轟かせており、彼が死んだ現在でも彼のビッグネームを頼ってこの事務所に駆け込んでくる客は少なくない。
そしてその一番弟子である左翔太郎も彼の意思と実力を十分に継いでおり街で起こった難事件をいくつも解決してきた。
そう。
この鳴海探偵事務所は、無事に世代交代をし、翔太郎は壮吉の娘である亜樹子とともに立派にこの探偵事務所を盛り立てて、
「と・に・か・くっ! 窓の外見てぼ〜っといるヒマあったら仕事とってきなさいよねっ!? 今月も赤字なのよ、あ・か・じっ!」
「近い、近い近い近い! えぇーい、唾を飛ばすな唾をっ!」
・・・・・・。
あ・か・じっ!のところでこれでもかってくらい顔を近づけてくる亜樹子。
いくら街では名の知れた会社だといっても所詮は私立の探偵事務所。
稼ぎの上限はたかが知れている。
調子よく稼げる時期もあるにはあるが、現状の鳴海探偵事務所の財政は正直従業員が食べていくくらいで精一杯。赤字のボーダーラインを絶賛低空飛行中だった。
亜樹子がぎゃあぎゃあと騒ぐのも、別に彼女が神経質な性格だからというわけではない。
しかしこれだけ耳元で亜樹子に赤字と叫ばれていても、当の翔太郎にはイマイチ少しピンとこない。
(別に金なんてどうでもいいじゃねーか。探偵ってのは依頼人の笑顔のために働くものだぜ・・・・・・っ!)
前任者である鳴海壮吉の依頼人のことを第一に考えるような探偵スタイルを崇拝している翔太郎にとって、亜樹子のあ・か・じっ!シャウトは何か納得のいかないもののように思えた。
(そりゃ、金も確かに大事だけどさ・・・・・・)
このあたりの温度差が翔太郎と亜樹子の間にある主張のすれ違いの原因だった。
しかし翔太郎はふぅ、と一つ深呼吸をして考えを落ち着かせる。
ピンチのときこそ冷静に。
翔太郎が先代から学んだことの一つだった。