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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (71)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (71)一難去ってまた一難

 『おい、見えてきたぞ。
 あれがお前が目指している三国の避難小屋だ。
 だが、問題はここから先に山ほどある。
 着いたからといって、簡単に安心をしちゃいかんぞ。小僧』

 稜線上の強い風にあおられながら、地面に這うような態勢で
身体を低くして歩くこと10数分。
ようやくの事でたまが、三国小屋の敷地までたどり着きます。
山荘に到着をしても先導役を買って出たオコジョは、厳しい表情を
一向に緩めません。
それどころか、かえって表情を強ばらせています。


 『嵐がやってくる前の山小屋は、
 そのへんの要塞よりも、はるかに守りは固い。
 ドアに鍵がかかっているわけではないが、人の出入りは
 全く途絶えたままだ。
 内部では、嵐に備える準備のために大わらわが続いている。
 つまり。俺たちみたいな小動物が、ヒョイと庭先に顔を出したところで、
 人間どもは、誰ひとりとして注意なんか払ってくれない。
 どうするつもりだ、お前。なにか対策を考えてきたか?』

 『山荘に来れば、何とかなると思っていただけです。
 せっかくやってきたというのに、中にいる人間に気がついてもらえないと、
 無駄足になってしまいます・・・。どうしましょう、仏の善治さん。
 そこまでは、考えていませんでした!。オイラ』


 『避難にのために、この山小屋へ逃げ込んでくる登山者でも
 やって来れば、このドアが開く可能性がある。
 そうかといって、それを待っている余裕なんかはなさそうだ。
 誰かが来るのを呑気に待っていたのでは、天候がもっと悪化をしちまう。
 かといってこのドアは、俺たちの力ではビクとも動かん代物だ。
 よし。そのあたりに散らかっているものを、ドアに向かって
 片っ端から蹴っ飛ばせ!』


 賑やかになれば、もしかしたら中の人間たちが気がつくかもしれないと
オコジョが言い出し、手頃な獲物などを捜索しますがすでに周囲は、
先程到着をしていた2人の作業員たちによって、完璧といえるほど、
綺麗に片付けられています。


 『なんにも残っていないのでは、蹴ろうにも足のだしようがねぇ・・・・
 仕方ねぇなぁ、とっておきの第2弾といくか』


 助走のために庭の中程まで下がったオコジョが、一気にダッシュをします。
板塀を派手に駆け上がり、水滴のついている窓ガラスへ飛びつきます。
ペタンというかすかな音を立てて、オコジョが窓ガラスに張り付きますが、
中に居る人間たちが物音に気づいて振り向く前に、力が尽きてしまい、
哀れにも、ズルズルとむなしく地上へ落下をしてしまいます。


 『駄目だ。自慢の第2弾も、ものの見事に失敗策だ。
 とてもじゃないがこの作戦は俺の体力の方が、
 先に悲鳴を上げることになる。
 まいったなぁ。このまんまじゃいつまで経っても、このドアは開かずに、
 オイラ達は、無駄足を踏むことになる』


 肥満気味のオコジョが早くも、
庭の真ん中で『参ったなぁ』と悲鳴をあげています。
そのまま大の字に寝っ転がってしまい、万策尽きたと早くも天を仰ぎます。


 『そうですねぇ。開かないと困りますょねぇ・・・』
と、たまも途方に暮れながら、ドアを見上げます。

 『ねぇ、仏の善治さん。あそこに見えている鐘は、
 なんのためのものですか?』

 『鐘?。鐘があるのか、
 そいつは、人が到着した時に鳴らすためのものだ』と、
それがどうしたと、オコジョがむっくりと起き上がります。

 『そうだ。鐘だ、そいつが使えるぞ。
 おい、お前。そいつには鳴らすための紐がぶら下がっているか?』
 
 『付いていますが、短く結んであるようです。
 鐘から、ほんの少しだけですが、紐のようなものが見えています』

 『嵐が来るために、人間どもが紐を短くしたんだろう。
 おい。おれが下で踏み台になるから、お前、思い切りジャンプをしてみろ。
 身軽なお前なら、あの紐まで届くかもしれないぞ。
 飛びついたら口に咥えて、死んでも紐を離すなよ。
 鐘の音で人間どもが表に出てくるまで、絶対に意地でも鳴らし続けろよ!』

 『わかりました』と、たまが助走のための距離をとります。
頭の位置を低く下げ、後ろの足に力を貯め、一気にダッシュをしようとした
まさにその瞬間、『なにしてんだ、お前たち』と後ろから、ヒョイと
誰かに抱き上げられてしまいます。


 「なんだ。昨夜の元気な三毛猫じゃないか。
 まもなく嵐がやってくるというのに、
 お前さんだけ、なんでこんなところで呑気に遊んでいるんだ。
 だいいち、あのお姉ちゃん達はどうしているんだ。
 ん。誰かと思えば、そこに這いつくばっているのは、
 いつものオコジョじゃないか。
 どうしたんだよ、お前さんまで。
 ははぁ、さてはお嬢さんたちがピンチなのか?。もしかしたら」


 水汲み場から運んできた2つのバケツを、地面に降ろしたヒゲの管理人が、
たまを抱き上げたまま、何かを言いたそうなオコジョの
様子を見つめています。
たまの背中にくくりつけられている、黄色いハンカチに気がついた管理人が、
手早く解いていくと、2人にプレゼントしたはずの、イイデリンドウの
登山バッチが現れます。


 「おっ。こいつは俺が、
 2人にプレゼントしたはずの登山バッジだ。
 間違いなさそうだな。やっぱり救助を待ってどこかで避難しているか。
 偉いぞお前たち。それを知らせるために此処まで来たのか。
 そうとわかったら、こうしちゃいられないぞ。
 大変だ、大変だぁ!」


(72)へつづく