青春は美しい
「はーい、どうぞ」
視線はそちらに向けず返事だけをする。
「失礼します」
しばらくしてガチャリとドアの開く音がする。
パタンと閉じられたところで初めて後ろを向くと見知らぬ生徒の顔。
「………えっと…」
「二年八組の谷口です。先生にはまだ教わったことがありません」
「なら、なんでまた?」
そう聞けばその女子生徒は少し考えるような、躊躇うような表情を一瞬だけし、次の瞬間には何かの覚悟をしたような表情になり、
「先生はクリスマスどのようにおすごされる予定ですか?」
と、そこそこ大きな声で聞いてきた。
そこまで聞いてなんとなくこの子が何をしに来たのかわかってしまった気がした。
大人になると変に察しが良くなってしまってだめだわ。
「……まぁ、例年どおりっていうか…家族と穏やかに過ごすつもりだけど…」
はきはきと質問してきた女子生徒とは対照的にのんびりとそう言えば、
「じゃあ、お暇なんですね!? そう解釈していいんですね!?」
「ま、まぁ、そうね。暇っちゃ暇ね」
あまりにも大きな声で言うものだから、思わずどもって返事をしてしまった。
まぁクリスマスは確かに暇っちゃ暇なのだけれど、今年のクリスマスは少し例年のクリスマスとは違う。なぜなら、
「…でも、その日には家族に恋人を紹介しないといけないのよ」
私がそう言えば女子生徒の顔はみるみる歪んでいき、その大きな瞳に涙を溜めていた。
そういえば恋人のあの子もこんなふうに泣くななんて思ってしまった。
「ああ泣かないで、ごめんね。ごめんなさい」
女子生徒の頬にそっと触って涙をぬぐった。
せめてもの罪滅ぼし。
「勇気を出してここに来てくれて、ありがとう」