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【侍  の連続攻撃
  ‐コボルドは死んだ
  ‐コボルドは死んだ
  ‐コボルドは死んだ
:コボルドの攻撃  
  ‐聖騎士が  2のダメージを受けた
【戦士 は防御している
:コボルドの攻撃  
  ‐戦士 は  攻撃を回避した
:コボルドの攻撃  
  ‐聖騎士が  1のダメージを受けた
【僧侶 はデモクラを唱えた
  ‐侍  は集中力が上がった
:コボルドは仲間を呼んだ
  ‐コボルドが 3体あらわれた
:コボルドの攻撃  
  ‐魔法使が  1のダメージを受けた
【魔法使はヘイストを唱えた
  ‐侍  は素早さ が上がった
:コボルドは仲間を呼んだ
  ‐コボルドが 2体あらわれた
【聖騎士は防御している
:コボルドの攻撃
  ‐僧侶 が  1のダメージを受けた
:コボルドの攻撃
  ‐侍  が  攻撃を回避した
【侍  の連続攻撃
        斬!臓腑斬!!
        土蹴踏!
      斬! 血!
     斬首!
    斬!
   空!
   !!
  !

侍が振るう薙刀の尖先は軌道上最高速の地点でコボルドを通過し、肉片が散る。
肉片を所有していたコボルドは悲鳴をあげ、転げ回って泣き叫ぶ。
薙刀の構えは天地上段。
侍の速い眼はコボルドが襲いかかる安易な軌道を見切り、そのひと振りで数体に突風を疾らせた後、天地上段の構えにかえる。
        斬腕!
          斬!  切!
             血飛沫!
  ‐コボルドは死んだ    斬首!
  ‐コボルドは死んだ     斬首!
  ‐コボルドは死んだ       斬!
                   !!
                   !

コボルドが無数にいる巣窟とはいえ、フィールドで同時に襲いくる個体数には限りがある。
侍の剣技、殺傷力はその限度数を優に超えた。
肉片が飛び散り、あたりに温かな血の臭いが充満する。
一枚の羽根を掴むような加減で薙刀を握り、上段に構えられた姿から発せられる威圧は修羅の如きではあるが、一切の殺気も発せず神懸かりな反射速度で迎え斬る。
周囲を包む生臭い匂いはアドレナリン噴出を促し、血の香りを纏う侍の集中力は更に研ぎ澄まされ、反転し、無の精神状態に切り替わっていた。

長刀系の武器で多勢と対峙する際には二つの眼を要する。
肉眼は刃先に集中させ、
心眼は己と敵の立ち位置を正確に把握する傍観者の眼に据える。
距離感の違う二つの眼を同時に制御することこそ重要である。
この侍は多勢との闘いに慣れていた。
これだけの数をまともに切り捨てれば、刃は返り血で切れ味を失う。
侍の業は刃には頼らず、猛烈な刀刃の速度で獣の肉を削ぎ飛ばした。
その驚くべき高速剣技で次々に仲間が殺されていくのを見せつけられてもなお、知能の低いコボルドは、ただ侍を襲い続けた。
           疾風! 両断!!
           弾血肉!
          悲鳴!  ‐コボルドは死んだ
        斬足!    ‐コボルドは死んだ
       風!
  ゛   斬!       ‐コボルドは死んだ
    、 !!
     !
   、
 僧侶と魔法使の補助魔法により、侍の技の速度は長時間ピークを維持している。 巣に迷い込み、コボルドに包囲されてから30分近くのバトルの末、咆哮の威力は半減している。そこから推測しても、群れの半数以上は始末したであろう。
 夥しい数の肉塊が散乱して積み重なっていく。
 他のメンバーは凄まじい剣技に巻き込まれぬように、薙刀の射程範囲外で弓型の守備陣形を整えた。

 前列で戦う物理攻撃型にも得意分野がある。リーダーの戦士のように1対1に強いタイプや、多勢に対して強みを発揮する侍のようなタイプ。異なる個性が集まり理に叶ったバランスのパーティーのみが修羅場から生還して経験値を積み重ね、理不尽なパーティは淘汰される。
 侍はこのパーティに加わった後に、戦士との攻撃バランスを考慮して己の武器を日本刀から薙刀に持ち替えた。日本刀を装備していた頃の侍は居合術の達人であった。よって、侍のみせる薙刀の業は居合術の呼吸に近い。
 剣術には虚実の業が無数にあるが、居合術には、抜いて、斬り、納める、それだけである。
 かつて、戦士が居合術の心得を訊ねた際に、侍はこう答えた。

  侍 「なぁに、むずかしいことはござらん
     はやく抜いて、はやく納める___それだけのこと
      ただ、抜くときと納めるときには
         体内から一切の力を捨てさることのみかと 」

 戦士はパーティのバランスを考慮し、躊躇せず使い慣れた日本刀から薙刀に持ち替えた侍に対して絶大の信頼をおいていた。

 戦士がこの広いフィールドに足を踏み入れた時、中央を直進するのを選んだのにはそれなりの理由があった。最短距離での道程ということも一つ。さらには侍の有する薙刀の技の特性を生かすことを優先したのである。長い薙刀を振るう為のフィールドの確保は、壁際では危ぶまれる可能性がある。戦士はどのみちバトルを避ける事はできないと考え、防御よりも攻撃を最大限に引き上げる為のフィールドの確保を選択した。

 侍が単独で深く切り込み、後方から僧侶と魔法使が侍を補助魔法でバックアップし、戦士と聖騎士が2人を護衛しつつ、隙あれば戦士も攻撃に参加する。下等なコボルドの巣窟での最も消耗の少ないと思えた戦士の戦術。
 5人はバトルの終了に見当をつけ始めた頃であった。

 だが1人として気づいている者はいない。新たなる敵がコボルド群の背後の闇の中に出現しているという事実を。