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 魔法使は命の終焉を受け入れる。
 シーフに手渡したのと同じ毒薬を取り出すと口に含んだ。そして、覚悟を決めて口中の毒薬を舌の動作で喉の奥に落し入れた。

その時

立て続けに2つ、大きな爆発が起こると瓦礫が雨のように舞い落ちて来た。
近距離で上級レベルの魔法を唱えたような衝撃波。
途端に土砂煙が押し寄せて一気に視界が霞んでゆく。
爆音の発生源の天井には直径3Mほどの穴が生まれていた。
その天井穴の向こう側から竜種系の咆哮が唸りをあげる。
コボルドの咆哮とはまったく異質、雷のように何処までも轟く野太い咆哮。
魔法使は喉を落ちていく毒薬を咄嗟に吐き出していた。
再び爆発音が轟き、天井穴は更に砕け広がり、再び瓦礫が舞い落ちる。
砂埃が舞い視界が悪化する最中、いきなり天井穴から毒竜が雪崩れ堕ちて来た。


__【ガスドラゴン】
 毒竜。首長竜。竜脚下目系のドラゴンの亜種。4足歩行。体長は8〜16m。翼はあるものの退化している為に飛ぶこと出来ず、完全に陸上の生息種である。そのため四肢は強靭に発達しており、巨体にもかかわらず馬なみの速度で地上を移動する。口から黄緑色の毒煙を吐き、この塩素ブレスの毒性は非常に危険。身体能力に関しては成長の度合いに応じてかなり異なり、幼竜からは数十年もかけて成竜に成長する。__


 突如、落下して来た毒竜。物理的にもダンジョン壁を破壊しての登場は、決してカメレオンの幻影などではない。
 天井の大穴からは立て続けに更なる1頭の毒竜が堕ちてくる。
 毒竜は着地の体勢をとることが出来ずにそのまま地に叩きつけられると、2頭が共に横転、腹を見せて転がり倒れた。だが落下の衝撃などは物ともせずに素早く巨体を引き起こす。
 まず最初に落下してきた毒竜が先に慌てて立ち上がると、光が照らすバトルフィールドに向かって走り出した。その毒竜の全身には、いたるところに真新しい剣傷痕が刻まれ、骨まで露出している深い傷もあった。
 後の毒竜も遅れて立ち上がると、急いで先頭の毒竜を追い駆ける。同じく深手を負っている。2頭はバトルフィールドの反対側の闇にある通路、パーティーが通って来た道を目指して走り出していた。10Mは超える体格の毒竜だが、その姿はまるで悪魔にでも追われている様な慌て振り。

その行く手に立ちはだかるのはバーサク状態の狂える聖騎士。

既に最高速に達している先頭の毒竜が狂騎士に迫り、顎を最大に開いて牙を剥く。
アドレナリン全開の狂騎士が正々堂々1歩も引かずに迎え打つ。
激突。
真正面から半歩踏み込み下段で迎え斬る狂騎士の剣が疾る。
全速力の毒竜に鋭い角度で高速に振り上げられる剣は正確無比なタイミング。
刃は毒竜の開かれた下顎に激突し、深く食い込み、切り裂き抜けた。
瞬時に斜め後方に跳ね飛び毒竜をやり過ごす狂騎士。
下顎を大きく裂かれた毒竜だが、その突撃は微塵も怯むことはない。
毒竜は狂騎士の動きに合わせて無理やり方向を転換すると体勢は崩れた。
大きな巨体は宙に舞う。
その不安定な浮遊状態でも長い首は狂騎士の逃げる先から回り込み、頭上から丸ごと上半身に噛みつくと、胸まで咥え、再び横転して転がりこけた。
7M程の距離を2回転もしながら転がり込んだが、咥えた獲物は放さない。
胸から上をガブリと呑み込まれて狂騎士の下半身は宙に浮いた状態。
拳ほどもある牙と牙の隙間から飛び出る腕には未だ剣が握られ一心不乱に振り回していた。
そこに追いついてきた毒竜の牙がその下半身に食らつく。
2頭は強靭な力で獲物を奪い合いあった。

 天井の大穴からは新たな咆哮が聞こえた。それは明らかに命を奪われる直前の悲鳴のような咆哮である。
 その悲鳴はすぐさま落ちてきた。3頭目の毒竜は地に頭を激突させると脳震盪を起こして立ち上がれない。しかも、すでに両前足と背中の翼を切断されたうえに片目を潰され、全身が炎系魔法で焼かれて黒焦げの無残な姿であった。

 続いて大穴からは1人の戦士が姿を見せ、瀕死の毒竜の上に落下していく。戦士は着地と同時に無残な毒竜の頭部に止めの一撃を突き刺した。更には高揚して雄叫びをあげる前衛職の者達が続々と天井穴から落ちて来る。戦士、侍、騎士、戦士、戦士、侍、忍者、その度に次々と傷だらけの毒竜に剣が突き立てられ、無残な程に串刺しにされていった。その全ての刃が急所を確実に貫き、毒竜は息絶えた。

 狂騎士を引き千切った2頭は既に通路に向い走り出していた。2頭の前方に位置するのは、出血多量で失神寸前の片腕悶絶僧侶。間に合わない。2つの巨体が踏み潰して走り抜ける。何とも聞きとれないひと声が囀り、後にはミンチ状の僧侶の肉が地にねじり込まれていた。
 前衛職の一団は疾走するその2頭に早くも追いつき、見事なコンビネーションで切り刻んで追いつめはじめ、逃げる毒竜と共にフィールド外に消えて行った。

 やがて後衛職の僧侶や魔法使、ビショップにシーフなども天穴から落ちて来た。全ての人数を合わせると3パーティーの共同の狩りだろうか。次々に走り去る冒険者の中には、このフィールドに倒れる屍を見つけて、その防具や剣などの装備を物色し、気に入った武具を剥ぎ取った。

 若い魔法使はそれらの一連の光景を呆然と眺めていた。
 最初の毒竜が堕ちて来た時点で、コボルドの群れは闇の中に消え去っていた。
 最後に落ちてきた僧侶がしなやかに地に着地すると、ヘタり込む若い魔法使に気づいて歩み寄って来た。若い魔法使の傷ついた体を神聖な気の香りが包む、傷口は塞がり体力も回復してゆく。

 女僧侶「立て、 ゆくぞッ

 女は厳しく叱咤した。
 茫然自失の若い魔法使はその言葉に反応できずにいる。女は動けずにいる端正で美しい顔立ちの若者を少しの間眺めてから軽く微笑み、今度は穏やかな口調で再び同じ台詞をなげかけると、仲間を追って走り去った。

 女僧侶の後ろ姿に我に返り、立ち上がると辺りの無残な光景を見渡した。
 転がる生首と視線が交わる。
 魔法使はその生首が生前に言った台詞を思い出していた。
 侍が死の宣告を受けたあの時の言葉。
 怖気づいて竦む魔法使をみてとり、戦士は近づいて来てこう耳打ちした。

 『助九郎はもう終わりだ。救けようなんて思うな
  今は自分が生き残ることだけを考えろ

 魔法使は切り落とされた僧侶の片腕に歩み寄ると、その腕から銀の腕輪を剥ぎ取り、自ら装備した。
 あの女を追いかけて走り去った。




 ____第1話 終



 NAME    CLASS  AC  STATUS   MP  SEX  AGE
 スカパル   魔法使   3   065/065  07/58  ♂  19
 ジゾット   シーフ   1   ----/ 死  11/43  ♂  28
 助九郎    侍     3   ----/ 死  03/55  ♂  27
 ガルシア   戦士    1   ----/ 死  00/00  ♂  33
 ミュラン   聖騎士   3   ----/ 死  00/32  ♂  22
 クライヴァ  僧侶    2   ----/ 死  00/89  ♂  38