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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (68)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (68)かつお節の味噌汁


 三国の山小屋では、管理人の不安がいまだに続いています。
雷鳴の間隔は轟くたびに、接近していることを如実にしめします。
暗雲が立ち込める上空からは風に混じって、大粒の雨が地面へ落ちてきます。
本格的な土砂降りが、まもなく此処へやってくるという明らかな前兆です。


 「このまま天候が、いっそう荒れてくるのは間違いがないようだ。
 ということは、そろそろこのあたりも、本格的な梅雨入りの
 気象配置になったということかな」


 「夏が始まると、性質の違う2つの空気が稜線でぶつかりあう。
 上空には寒気や乾燥した空気が入りこみ、
 地表近くから暖かく湿った空気が発生すると
 激しい対流活動が起こり、発達した積乱雲を山の頂に生み出す。
 だが、今日はいつにも増して発生の時間帯が悪い。
 お昼を過ぎたばかり今頃は今日の好天を信じて、多くの人たちが
 さかんに山の中を歩いている時間帯だ。
 天候の急変を察知して、早めに避難をしてくれているといいが、
 逃げ遅れてたりしていると、大変な事態になる。
 などと・・・・ここで、余計な心配をしていても、はじまらないか。
 今朝、あの子達が、美味しいかつお節を大量に置いていってくれました。
 みなさん、身体が冷えていることでしょうから、
 あの子達に感謝をしながら、熱い味噌汁でも作りましょうか」


 『おお、いいねぇ~』と言う歓声を背中に聞きながら、
管理人が、不安を断ち切るように厨房へと急ぎます。
そこには、『お世話になったお礼ですから』と、ニコニコと笑いながら
清子がせっせっと削りあげた大量のかつお節が、ビニール袋にきっちりと
詰められたまま、デンと調理台の上に置かれています。


 『無事だといいがなぁ、姉ちゃん達も・・・・』
ぽつりとつぶやいた管理人が、かまどで薪の支度を始めます。
無事に火がつき、やがて大きな鍋がグラグラと湯気を上げてたぎりはじめた頃、管理人が、密封されていたかつお節の封を開けます。
ビニール袋の口が解放された瞬間、削りたての芳醇すぎるかつお節の香りが、
いっぺんに周囲に向かって開放されていきます。
『ほほぉ・・・
驚いたねぇ。削りたてのかつお節というのは数時間がたっても、
びっくりするほどのいい香りが漂うもんだねぇ!』


 湿っぽい空気があたり一面に漂う中、どこからか、ほのかに漂ってくる
かつお節の香りがある事に、ふと、たまが気づきます。
『なんだぁ。どこから香るのかな、
オイラの大好物のかつお節の匂いがするぜ。
間違いじゃなさそうだな・・・・こいつは、今朝食ったばかりの
かつお節の匂いだ』
だが、なんでこんな処でかつお節の匂いがするんだぁ・・・
と、たまが小首をかしげます。


 しかし、ソヨリと空気が動いたあと、
たまの周りで風向きが変わってしまいます。
あれほど漂っていたかつお節の匂いが、突然とふわりと消えてしまいます。
『おかしいなぁ・・・』とたまが、清子の懐で鼻を空中へ伸ばします。
ヒクヒクと動く鼻腔が、空中にあるはずのかつお節の匂いを探して、
あてどもなく、必死に匂いを追い求めます。


 『どうしたのさ、たま。
 なんか気になるものでも、見つけたのかい?。』

 急にそわそわとし始めたたまに、清子が頭上から声をかけます。


 『おう。気のせいじゃない。
 たったいま、突然だったが、オイラのこの鼻に
 かつお節のいい香りが、風に乗ってしっかりと漂ってきた。
 間違いねぇ。あれは確かに今朝、オイラが食ったかつお節の匂いだぜ』


 『かつお節の匂いがする?。
 でかした、たま。それは山荘からの、食事の匂いだ!。
 ということは、どのくらいかはわからないけれど、お前の鼻が嗅ぎ分ける
 範囲に、山荘があるという証拠です』


 『近くに、例の山荘があるということか?。
 だが、そこに居るはずの人間の臭いや、山荘の匂いなんか、
 全く、オイラの鼻には漂ってこないぜ』


 『今朝出かけるときに、きっちりと袋の口を密封しておいたから、
 たぶん、開けた瞬間に鮮烈な匂いが飛んだのよ。
 ということは、山荘でお味噌汁でも作り始めたということかしら。
 チャンスがあるとすれば、もう一度誰かがそのかつお節の袋を
 開けてくれた瞬間だわね』


 『何がいったい、チャンスなんだよ・・・・。
 な、なんだよ、清子。俺を見つめてくる、その熱っぽい目の意味は』

 『どこを探したってあんたしか、居ないじゃないの。
 この悪天候の中を、かつおが出すほのかな匂いを辿って
 山荘まで歩いていける正義の味方なんて』


 『せ、正義の味方・・・オイラのことか。
 無茶なことを言いだすなよ、清子。だいいち猫は湿気が一番の大敵だぜ。
 童話の中で長靴を履くことはあっても、雨の日に
 散歩なんかしている猫なんて、オイラは聞いたことがないぜ!』


(69)へつづく