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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (66)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (66)地震 雷 火事 親父

 
 一瞬閃光が走り、凄まじい雷鳴が2人の頭上で炸裂します。
両耳を抑えた清子が恭子の胸へ慌てて飛び込みます。
間髪を入れずにその背中へ、恭子が覆い被さってきます。
『イタタ。乱暴だな、おい。オイラが潰れちまうぜ・・・・
頼むから、2人とも顔を上げて起きてくれよ』
たまが、清子の胸の下で必死になってもがき続けています。


 『ごめんよ、たま。でもびっくりいたしました。突然だもの。
 大丈夫だったかい、お前』


 『大丈夫なわけがないだろう、か弱いオイラが。
 Bカップもどきと、Dカップが突然覆いかぶさってくれば、
 さすがのオイラって、只じゃ済まない。
 イテテ。参ったなぁ、おっぱいのせいで骨折をしたかもしれないぜ』

 『それだけの悪口がきければ、とりあえずは無事の証拠です、たま。
 昔から地震・雷・火事・親父というけど、やっぱり・・・
 突然の雷には、怖いものがありますねぇ。』

 
 ゆっくりと身体を起こしはじめた恭子が、突然すぎる出来事のために
くにゃりと曲がってしまった帽子のつばを直しています。
清子の懐からは、鼻の頭にヒメサユリの花びらをつけたたまが、
のそりとして現れます。
『清子よう。おいらの鼻がなんだか、甘美すぎる匂いでクラクラするぜ。
なんなんだよ。この初めて嗅ぐ、優雅な香水のような香りはよう』
たまのフンという鼻息にあおられて、花びらがヒラリと
濡れた地面へ落ちます。


 犬は匂いを辿って獲物を見つけますが、
猫は目と耳を使って獲物を捉えます。
しかし猫は同時に、大変に発達をした嗅覚も身につけています。
犬ほどではありませんが猫の嗅覚も、人と比べると数万倍から数十万倍は
優秀だと言われています。
ネコは窒素化合物を含むニオイには敏感に反応します。
特にアンモニア臭が漂う腐った餌は、瞬時に嗅ぎ分けるほどの名人です。


 ネコの身体はもともと、腎臓や肝臓に多大な負担をかける
構造になっています。
毒素を分解するための仕組みが、体の中で効率よく作ることができません。
そのためにネコは、脂肪の中に含まれているかすかなニオイの中から、
自分の食べ物として適しているかどうかを敏感に感知し、
その鮮度を一瞬にして見抜いています。


 『大丈夫だよ、たま。
 食べられるかどうかは別にして甘い匂いの主は、ヒメサユリです。
 おや。黄色い花粉まで鼻の頭に着いていますねぇ。
 あはは。よく見れば体中に、ヒメサユリの花粉が付いて真っ黄色です。
 さっき倒れ込んだ時に、ヒメサユリの花を
 下敷きにしてしまったようですねぇ。
 ヒメサユリには、ちょっぴりと気の毒なことをいたしました。
 うふふ。お前。黄色が1色増えたことで、三毛ではなくて
 いつのまにかの、四毛猫ですねぇ!』


 『よせやい。四毛はまずいだろう、縁起でもねぇ。
 それよりも、地震、雷、火事、親父という順番はわかるが、
 なんで4番目に人間の親父がやって来るんだ?。
 昔のオヤジってのは、すこぶる怒ると怖い存在だったと
 聞いた覚えはあるが、なんでその親父が、
 天災ばかりが並ぶ4番目にやってくるんだ』

 『そうだね。3つまでは怖いと言われている天災だけど、
 4つ目は確かに人間だ。
 なんでだろうね。あたしにもよくわかりません』


 「人間のオヤジのことじゃなくて、台風という意味です
 昔は大山風(おおやまじ)と呼んでいた台風のことを、
 いつの間にか習慣で、「おやじ」と呼び始めたの。
 だから本当の意味は地震・雷・火事・台風で、全部天災を表していたの。
 たしかに昭和の時代には、カミナリ親父なんてのがいて、
 随分と威張り散らして、怖い存在だったそうです。
 今は男性たちもずいぶんと軟弱化をしてきたようですので、
 そろそろと、昔のように大山風(おおやまじ)と直したほうが
 いいようですね』


 たまとの会話を聞きつけた恭子が、横から口を挟みます。
『なんだよ。やっぱり台風のことか。
可笑しいと思っていたが、なるほどね』と、
つぶやきかけたたまが、また、ピクリとヒゲの先端を思わず震わせます。
『何?。また、雷の襲来?』清子がたまに顔を近づけて瞬間、
真っ白いガスの空間に突如として眩しい閃光が走ります。
『来る!』と身構えた2人が、両耳を抑えて防御の姿勢をとります。


 2秒、3秒・・・・しかし、雷鳴はなかなかとどろきません。
『おかしいですねぇ・・・』恐る恐る清子が顔を上げた次の瞬間、
まるでその油断を狙い済ませたかのように、大音響が、激しく頭上から
2人の真上に落ちてきます。

 「音速は今時期の温度では、毎秒340mです。
 今の秒数から計算をすると、雷は、推定3キロから
 3、5キロの距離まで来ています。
 まいったなぁ。こうして雷が鳴るたびに、落雷場所は
 確実にここへ、近づいています。
 ここまで来るのは、もはや、時間の問題かもしれません・・・・」


 冷静なまでに距離計算をしている恭子が、なぜかじわりと
聡明な額に、焦りの表情などを浮かべはじめています。


(67)へ、つづく