ゲイカクテル 第9章 ~ TAG THE PARTY ~
最後がホランド郡だった。ノイキルヒが作戦完了した時、トラックはホランド郡に入った。ビリーは深夜一時からロータス・マンションを張っていた。深夜二時半になり、やっとビアンカがエントランスから出てきた。ビリーは暗視モードで尾行を始めた。まずビアンカは広場に向かった。ビリーに尾行されているのには気付いていないようだった。元々アンドロイドには気配がない。それはバイオロイドになった今もである。尾行向きの体質とも言える。ビアンカは広場に出ると西に向かった。ひたすら西に向かい、青果卸売市場に出た。するとビアンカはそこの0番倉庫に入っていった。この時間に似つかわしくなく電気の明かりが点いていた。ビリーは市場の横にある公衆電話に入り、ロンに教えてもらった電話番号をダイヤルした。しばらく呼び出し音が続き、デービス刑事が出た。
「デービス刑事、お久し振りです。オール・トレード商会のビリー・トマス・シュナイダーです」
「あぁ、シュナイダーさん。どうされましたか」
「ロンをお願いします」
「分かりました。少々お待ち下さい」
しばらく間があってロンが出た。
「ビリーか。どうした。もしかしてやったか」
「はい。ビアンカを尾行したところ、青果卸売市場の0番倉庫に入りました。電気も点いています」
「そうか。分かった。お前は警察が来たら帰れな」
「いえ。ビアンカを見届けます」
「そうか。だったら気をつけろよ。流れ弾に当たらないようにな」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
ロンは電話を切った。無線を取り、急いで襲撃班に取引場所を伝えた。しばらくしてビリーは市場近くにSWATのバンと護送車を数台に覆面パトカーを数台見た。いよいよ始まるんだ、とビリーは思った。正直、複雑な気分だった。遊びだったとしても昔一緒に過ごした相手が自分の敵になり、警察の厄介になってしまうのだ。心の整理がつくか心配だった。もしかしたら、これを見届けたら区切りがつくのではないかと思って残った。
三十分程公衆電話から様子を見ていたビリーは、車のライトらしきものが見えてきたので外に出た。ゲイカクテルを積んだトラックだった。0番倉庫の前で停まったので間違いなかった。しばらく間があって、ライトを消した覆面パトカーが二台到着した。トラックに乗っていた男が荷台から木箱を降ろし、一人の男が扉をノックした。扉を開けるとビアンカが招き入れた。四箱運び終えると男はトラックに戻った。そこへ襲撃班がやって来てジーマを向けると、男達は大人しく捕まった。
0番倉庫は二階にも出入口があるので、SWATは二班に分かれて突入した。買い手はビアンカ一人で、早々に両手を挙げて降参したが、売り手はヴァージンを抜いて撃ってきた。SWATは上下から狙い撃ちした。太腿や腰に弾が当たり、売り手は倒れた。刑事はビアンカ達に手錠を掛け、護送車に乗せた。売り手は応急処置を受けた。ビリーはそれを見届けて、暗がりに紛れて家に帰った。
翌日、各警察は買い手である仲買人を取調べ、売人の名前を吐かせようとしたが、なかなか口を割らなかった。仕方なく刑事は刑期の軽減を条件にして出すと、彼等は名前を挙げ始めた。中には末端の売人の名前まで出す者もいた。ビアンカも例外ではなく、持っていた売人と顧客リストが書いてある手帳を提出した。そこには末端の売人まで記されていた。顧客リストも大口の者から微少な者まで記されていた。そして各警察は芋づる式に売人達を逮捕した。売り手は皆共和国人だった。中には共和国国籍の者もいたが、帝国と共和国には犯罪人引渡法がないので、帝国で裁ける。オーランド郡警察はその捜査と並行して、ハルシオン運輸会社のコトも調べた。運び屋から社長の名前を聞き出して逮捕した。そして会社自体を潰す目的で会社員まで調べ上げた。これで各警察とも一応の解決をみた。顧客が分からなかったオーランド郡とノイキルヒは自然淘汰を待つコトにした。それしか方法がなかった。
一方、ビリーはまだ心を痛めていた。心の整理がつかなかった。アレックスに話すと、時が解決してくれると言われた。そうなのかなと思いながらビリーは納得した。ホムンクルス時代の恋人の時もそうだった。戦争で死んでしまったのは悲しいコトだったが、確かに今はそう思い出すコトもない。ビアンカとはセックス・フレンドだったから、すぐに癒えるかもしれない。ビリーは今だけだと思うコトにした。
作品名:ゲイカクテル 第9章 ~ TAG THE PARTY ~ 作家名:飛鳥川 葵