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LOST SENSE ~第一章~ -2-

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-2-

やがて岩の世界にも異質な物質が迷い込む。
水であり水は瞬く間に海を作った。
静けさの均衡は破られ、『いのち』と呼ばれるものが生まれた。
『いのち』にとって世界の美しさは問題ではなかった。
それらにとって必要なのは欲望の充足であり、
それは自身の存在を拡大する行為によって得られた。
何千、何万という種類の菌、微生物が生み出され各々に自らの生息域を広げていった。
彼らの価値観は生殖、生存に限定された。
自我は持たずただひたすらその小さな躰に欲望を満たしていった。
そんな彼らだが神の概念はわずかにだがあった。
彼らは海を知っており、みな『海教』の徒だった。
まるで母親を慕う赤子のように海のそばを離れることはなかった。
彼らは海を愛し、海は彼らを愛していた。
無邪気に欲望をついばむ彼らの姿に海は心を奪われた。



「死霊か」

男は昨晩、遭遇した影のことを思い出しながら反芻した。
ネイブスの見たそれは幾分、相好を崩した様子で語りかけた

(森を抜けるのは難しい……。
本土の兵が陣を張りお前を捕らえようと躍起になっているからだ……)

「……俺を?」

ネイビスはぴくりとこめかみを引きつらせながら、

「なぜだ?いったい何の理由でそんな……」

と尋ねる。

(お前は金貨三千欲しさに教会からこの辺境へと赴いた……。
だがそれは諦めろ。何故ならいま、お前の首には金貨八千の
賞金がかけられている……)

八千だと?
いや、額も馬鹿げているがそれ以前になぜ俺に?

(お前の首に懸賞をかけた男は表向きは都に住むとある資本家と言うことに
なってはいるが、その男もまた別の男に買収されている……)

「しかし、そんな額を動かせるのは……」

ネイブスは自分の置かれている状況を整理する。
しかし整理がつくと今度は理解し始めた事実に身震いする。

(……察しの通りそんなことができるのは本国の内政に深く
 関わっている者だけだ。
大元をたどると宰相が相当お前を目の敵にしているようだ……)

「…………」

ネイブスはその宰相の顔を思い出さずにいられなかった。
本国の宰相を務めるのは『カーレン』という細身で神経質そうな男だ。
一度、彼の村にも視察に訪れたことがある。
ネイブスは幼い頃、その男から村では高価なホワイトチョコレートを
いくつかもらえた。
歓びのあまりネイブスは、はしゃぎその場を飛び回った覚えがある。
その様子を宰相はにこやかな表情で眺めている。
それはネイブスにとってかなりの間、良き思い出として心に宿ることになった。

そしてそんな二人のやり取りを公示人と呼ばれる広告業者たちがノートに
書きとっていた。
宰相にしてみればそれは、効果的なプロバガンダに過ぎなかったのである。

(明朝、北北東に歩め。やがて廃坑の入口が見えるだろう。
その奥にレームと呼ばれた地下集落がある。そこを抜けろ)

そう言い終えると死霊は無数の羽虫となって、月明かりの空へと散っていった。

…………。
……。

「あれが廃坑の入口だな……」

男の前方に50ヤードほど先に長方形の黒い穴が見えた。
穴の周辺には朽ちた角材やツルはしなどが転がり、
入口は錆びて傾いたトロッコが陣取っている。
想像していたよりもずっと小さな入口だな。ネイビスはその穴の奥を覗き込み思う。
穴の奥を覗き込みながらネイビスはめまいを感じた。
なぜだろうか、こう言う類の穴蔵というものに対してネイブスは妙な恐怖を感じた。
幼い頃、キノコ狩りに出かけたとき熊の巣穴を覗き込み殺されかけたことがあると
父親はいう。
しかしネイブスにその記憶はなかった。ネイブスはときおり、その時のことを
思い出してみた。
しかし熊に襲われかけるという衝撃的であるはずの記憶は一切、
出てこないのであった。

作品名:LOST SENSE ~第一章~ -2- 作家名:Yuta