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バレンタイン詰め合わせ

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柔蝮



正十字学園高等部の廊下を宝生蝮は歩いていた。
着ているのは正十字学園の冬服、長い髪はうしろでひとつに束ね二箇所をリボンで結んでいる。
放課後、今日は祓魔塾の授業がないので、女子寮にもどろうとしていた。
一緒に帰ったり、遊びに出かける友達はいない。
そのことを何気なく意識して、蝮は心の中で、フンと思う。
学校には勉強するために来てるんやから別にええ。
ひとりでも、私はさびしない。
蝮はさっきまでよりも強い足取りで歩く。
少しして。
「蝮!」
背後から呼びかける声がした。
ついビクッとして、蝮は歩く足を止めた。
聞き覚えのある声。幼いころから知っている、だが幼いころとは違う声。声変わりした、そのまえも後も知っている。
幼なじみなのだ。
蝮は振り返る。
眼をやった、そこには志摩柔造がいた。
一学年上で、学園の女子生徒の熱い視線を集めるその顔には人なつっこい笑みが浮かんでいる。
蝮は柔造をじろりと見た。
「なんや」
低い声で問いかけた。
柔造は学園の人気者であるが、自分にとっては、いけすかない幼なじみだ。
よくケンカもする。
なんの用もないなら、わざわざ呼び止めないでほしい。
柔造は蝮との距離を詰め、立ち止まった。
「帰りか?」
「そうや」
まさか、自分がひとりでいるのを可哀想に思って声をかけてきたのではないか。
蝮は警戒する。
お申に憐れまれるなんて、まっぴらや。
だが、自分がひとりなのは、友達がいないのは、事実だ。それを指摘されたくない。
ピリピリした空気を漂わせ始めた蝮に対し、なぜか柔造は自分の後頭部に手をやってガリガリと掻いた。
「えーっとやな」
歯切れが悪い。
「なんやの」
イラッときた蝮は不機嫌な声で聞く。
柔造の視線がすっと横へとやられる。
それから、その口が開かれた。
「もうすぐバレンタインやな」
「……は?」
なんの話や。
意味わからへん。
戸惑いつつも、蝮は不機嫌な表情を崩さずにいる。
柔造は蝮のほうを見ないまま、ふたたび口を開いた。
「蝮、おまえ、だれかにチョコやる予定あるんか?」
「ないわ、そんなもん」
蝮は強い口調で即答した。
本命チョコどころか、義理チョコも友チョコもあげる予定はない。あげる相手がいない。
バレンタインデイなんて私には関係のない行事や。
そう蝮は胸の内で吐き捨てた。
「……お、」
いっそう歯切れ悪くなって、柔造が言う。
「俺には……?」
「あげるわけあらへん」
なぜ、こんなことを聞かれるのかわからない。
わからないが、蝮はつんとした様子で思ったままのことを口に出す。
「なんで私がアンタにあげんなあかんのや。どうせアンタは他の子ぉらからいっぱいもらうんやないの」
義理チョコも多いだろうが、本命チョコもたくさんもらうのだろう。
蝮からすれば、なんであんなに、と思うぐらい柔造はモテる。モテモテ、だ。
あれだけモテていて本人に自覚がないなど、ありえない。
だから、仲良くもない幼なじみからチョコレートがもらえるかどうかを気にする必要はないはずだ。
しかし、どうやら柔造は蝮からチョコレートがもらえるかどうかを気にしているらしい。
なぜだろうか。
蝮は考え、ハッと思いつく。
「まさか、アンタ、バレンタインにどんだけチョコレートもらえるか、だれかと勝負してるんか!?」
「ちゃうわ!!!」
即行で、全力で、柔造が否定した。
違ってたか、と蝮は思った。
ちょっと恥ずかしい。
その恥ずかしさを隠すように素っ気なく言う。
「せやったら、私から一個もらえへんでも別にええやないの」
言い終わると、さっさと踵を返す。
お申の考えることはよぉわからん。けど、わからんでも別にかまへんわ。
聞かれたことにはちゃんと答えたんやし話は終わりでええやろ。
そう思い、蝮は柔造に背を向けて歩きだした。

残された柔造はガックリと肩を落とした。
「アホみたいやな、俺……」
思わず、つぶやいた。
学園内にひそかにファンクラブまで作られているモテ男は思う。
おまえからのが欲しいんや、なんて言えるわけないやろーーーーー!!!
そう胸の内で叫んだあと、また、つぶやく。
「なんでアイツはあんなにニブいんや」
しかし、そのニブいところも可愛い。
なんて思ってしまっていることも、言えるわけがなかった。








「……ってことがあったんや」
柔造が言うと、蝮はプイと顔をよそに向けた。
「そんなん、ハッキリ言わんほうが悪い」
ツンケンした口調で言い返してきたが、その顔はさっきまでと比べて少し赤い。
宝生家の蝮の部屋にいる。
和室で、部屋の真ん中あたりに置かれたコタツにふたりとも足を入れている。
向かい合って座る形ではなく、角を作る二辺のそれぞれ一辺に座っている形だ。
距離は近い。
お互い、成人してから数年経った。
いろいろあって、幼なじみから婚約者になった。
経緯を振り返ってみると、柔造が押しきったと言える。
「それで今年は?」
そう問いかけ、柔造はニヤと笑う。
「今年も、くれへんのか?」
今日はバレンタインデイである。
蝮は苦々しい表情で口を強く引き結んだ。
歯がギリッと鳴る。
あげるわけあらへん。
……って、高校生のころのように言えたらいいのに!
この部屋に、なんだか気恥ずかしくて柔造には見えない場所に置いた、綺麗にラッピングされたチョコレートがあるのだ。
蝮は柔造のほうを向いた。
タレ眼の目尻がいつもより下がっているように見える。
「なんやのこのニヤついた顔!」
蝮はすぐそばにある柔造の頬をつかみ、引っ張った。
「イタい、イタい、なにすんねん」
そう文句を言いながらも、柔造の顔からニヤニヤ笑いは消えなかった。








作品名:バレンタイン詰め合わせ 作家名:hujio