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バレンタイン詰め合わせ

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雪シュラ その2



夜。
奥村雪男は霧隠シュラの部屋を訪ねた。
居間に到着すると、雪男はシュラに問いかける。
「シュラさん、僕たちは、おつき合い、しているんですよね?」
「うん」
シュラは軽やかに肯定した。
笑顔だ。
その顔をじっと見て、雪男はさらに問いかける。
「今日はなんの日か知ってますか?」
「バレンタインデイだろ」
さらっと答えたシュラは、笑顔のまま続ける。
「チョコは用意してないぞ。だって、おまえ、同級生の女の子とかにいっぱいもらったんだろー?」
「直接渡される本命っぽいのは受け取ってません。つきあってる人がいるからって、断りました」
「おまえはホントに真面目だにゃ〜」
「じゃあ、受け取っても良かったんですか?」
「でも、義理チョコはたくさんもらったんだろ。それで充分だろー」
はぐらかされた。
そう感じ、しかし、どう言い返せばいいのか思い浮かばなくて、雪男は黙った。
バレンタインデイだからチョコレートがほしい。
なんて、くだらない。
そう思う。
そう思うものの。
やっぱり、ほしかった。
シュラ以外からの本命チョコは受け取らない。
浮気はしない。もともと浮気する気はないが、万が一にも浮気すればシュラに別れる口実を与えてしまう気がする。
その気がまったくなかったシュラに告白して、口説き落としたのは自分。
そして、シュラはいつでも引き返せる位置に心を置いているように感じる。
好きなのは自分ばかり、のような。
だから、バレンタインデイのチョコレートなんていう菓子業界の陰謀に乗せられたようなものであっても、好意が形あるものとして見えるから、ほしかった。
なかなか情けない話である。
だから、言わない。
別のことを言う。
「それじゃあ」
シュラのほうに手をやる。
やわらかな身体を抱き寄せる。
「チョコレートの代わりに、僕を甘やかしてください」
さすがに顔を見ては言えなかった。恥ずかしくて。
シュラの身体が少し揺れた。軽く笑ったのだろう。
「いいぞ〜」
冗談のような明るく軽い答えが返ってきて、優しい手が背中に触れるのを感じた。








作品名:バレンタイン詰め合わせ 作家名:hujio