小さな手
夕刻
肌寒い風が街を闊歩している
青空は次第にその濃さを増し
群青色に変化してゆく
銀色に輝く月は
夜空という海底からゆっくりと浮かび上がって来る
星達はそれに惹かれる小魚のように群生して
空を泳ぎ周り始める
僕はその天空の海に
菜の花の種を投げ込む
群青の空に鮮やかな黄色の菜の花畑が広がる
君の優しく暖かい手をしっかり握り締め
僕は君を天上に誘ってゆく
優しい瞳の二羽の燕たちが僕等を見守り
幸せを願うかのように
交差しながら
飛翔を繰り返す
君と僕は花畑に横になり
天空のその場所で
肩を寄せあい、微睡む
君は何も語ることはないが
その小さな手で
繰り返し、繰り返し
献身的に
僕の体中の傷を
優しく撫でてくれる
生と死の短い狭間の
僕の身体は
再びその暖かさを取り戻し
数々の痛みは少しずつだが
闇に落ちて
和らいでゆく
いつも傷ついた狼のように
一人で傷を舐めてきた
孤独な僕だった
忍耐という言葉が
僕の支えだった
君がいればこそ
僕があるのだと
感じた瞬間
願えば
それは永遠という時間に
変化する
君の手の温もりは
僕の血となって
身体を巡り
僕の身体を蘇生しながら
優しく見守り続ける
君を感じて
僕は明日に向けて
君の膝で
ひたすら眠る
安らかな寝息をたてて