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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (60)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (60)草履塚から御秘所(おひそ)まで

 草履塚(ぞうりつか)は、美しい景観が自慢の飯豊連峰の中において、
もっとも景観に優れたところとして知られています。
参詣者たちの散米を集めて甘酒を造り、これを分け隔てなく振る舞い、
さらには、難所のための杖などを貸し出した処としても有名です。
名前の由来は、ここで新しいわらじにはき替え、心身を整えて
本社に向かったといういきさつからです。
かつては、はき替えたわらじがここにうず高く積まれていたそうです。


 草履塚から難所の御秘所(おひそ)に向かう岩場の途中に、
姥権現(うばごんげん)と呼ばれる、石の地蔵があります。
女人禁制だったこの山へ、遭難した息子の搜索のために米沢から登拝した
「小松のマエ」という女人が、神霊の怒りにふれ石に化したという
伝説があります。


 これには、別の説もあります。
その昔、小松村(現在の川西町)に、
飯豊山を深く信仰している女がいました。
男の3倍も5倍も精進をしたら、女人禁制の山に登っても罰は
当たらないだろうと考え、100日間の精進を済ませたのち、
勇んで飯豊山に登ります。
頂上まであと一息という所で急に疲れを覚え、道端の石に腰を下ろして
一休みをします。ところが女は、そのまま石に化してしまいます。


 その他にも、草履塚のピークを一旦下った所に佇む赤い衣を
身にまとったこの地蔵さんには、昔からのさまざまな言い伝えが
残されています。
姥権現は飯豊山信仰におけるのひとつの象徴であり、同時に
すぐ間近に迫ってくる難所を越えるための、
安全祈願の場にもなっています。


 「清子。
 いよいよこの登山道最大の難所、御秘所(おひそ)に到着です。
 古くから、難所中の難所と伝えられてきた岩場です。
 慎重の歩いていけば、それほど難儀をするわけではありませんが、
 飯豊神社へお参りする、おおくの参詣者たちにとっては、
 一大決心が求められた岩場です」


 「決心が求められる岩場ですか。
 それは、ただ事ではありません」


 「御秘所の岩場を越えるためのルートは、3つ用意されている。
 頂上近くを越えていく上段の道は、『山橋』とも呼ばれていて、
 比較的容易とされる道です。
 下段と呼ばれ、岩裾を回り込んでいく道が、もっとも容易なルートです。
 しかし多くの参詣者たちはあえて、もっとも険しいと言われている
 中段の絶壁を、身体を岸壁に密着をさせながら前進していきます。
 その昔、ここが修験者たちの鍛錬の場だったという
 名残なんだろうね」

 「修験者たちの岩場なのですか・・・・道理で険しいはずです」


 「たまも居ることです。
 もっとも楽なルートといわれている、下段の道を行きましょう。
 ただし、下段の道には、怖い言い伝えが潜んでいるから、要注意だよ。
 無間(むげん)地獄に通じる『口無し穴』が、あちこちに開いています。
 目には見えないもので、聞かれても説明のしようのない代物だ。
 御秘所という名前も、この見えない穴に由来をしています。
 万が一落ちれば、生きて再びこの世に帰れないという神隠しの穴です。
 ここをを無事に通過できるものは、品行方正が証明をされます。
 不行跡のある者は、神隠しに会うとか、
 天狗にさらわれるなどの俗信があります。
 怖くなって通過できない者は、一生涯村八分にされるという
 掟さえあるようです。
 いずれにしても、ここを通過するには、
 とてつもない勇気が必要となります」

 「口無し穴から落ちて、無間(むげん)地獄へたどり着くと、
 その先では、いったい何が待っているんですか?」


 「8番目の地獄です。
 数ある地獄の中でいちばん恐ろしいと言われているのが、
 8番目の無間(むげん)地獄です。
 間断のない苦しみに、常に責め苛まれる地獄という意味があります。
 ここでは、それまでの七つの地獄の苦しみを合計したものの
 千倍以上の苦しみを味わうそうです。
 8番目の無間地獄に堕ちて苦しむことに比べれば、それまでの7つの地獄は
 天国みたいなものだとさえ、古い書物に記されています」


 『あらら。大変です。たまや、くれぐれも
 口無し穴にだけは落ちないように、お互いに気を付けましょうね』


 『気をつけるのはお前だけだろう、清子。
 だいいちオイラは、いつだってお前さんの懐の中に入ったままだ。
 悔しくったって、オイラは手も足も出せねぇ。
 落ちないでくれよ。
 愛しいオイラのミイシャと、晴れて念願の一発をやるまで、
 オイラ絶対に、死んでも死にきれねぇからな!』


 『そう言う不謹慎な発想が、
 自分に災難というものを呼び込むんだよ、たま。
 あっ、お前のための落とし穴が、たったいま、あたしの足元に
 ひとつ見えました!』

 『嘘をつけ、清子。
 いいからさっさとこんな御秘所は抜けて、とっとと神社にお参りをして
 すたこらさっさと、物騒なところからは帰ろうぜ。
 たのむぜ、まったく。こんなところで遭難なんかしたくねぇ!』


(61)へつづく