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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (59)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (59)オコジョとクマタカ


 『いい匂いがするなぁ・・・・』恭子に抱かれ、間近でイイデリンドウの
花を満喫しているたまが、思わずニタリと笑って目をほそめます。
一面に咲き乱れているハクサンイチゲの純白のお花畑を縁どるような形で、
周囲には、イイデリンドウの紫の花が群れています。


 「へぇぇ。お前にもこのイイデリンドウの清楚な香りが
 わかるのかい。偉いねぇ、たまは」


 『いや。イイデリンドウの香りじゃねぇ。
 恭子の胸は、清子の胸よりもはるかにでっかくてすこぶる居心地がいいや。
 おまけに、なにやらほんのりと良い匂いまで漂ってくるぜ。
 あ、なるほどぉ。
 これが成熟をしかけた乙女の匂いというやつなのかな・・・・
 なかなかに甘美で、官能的な匂いがするのう。
 いっひっひ」


 「突然に何を言い出すかと思えば、このドスケベな子猫め!。
 わたしは卑猥な子猫には、容赦なんかしないぞ
 飯豊連峰に住んでいる獰猛な猛禽類のイヌワシか、
 クマタカの餌にしてやろうか。
 それとも、山麓に住むツキノワグマか、
 カモシカの餌食にしてあげようかか!
 遠慮はいらぬぞ、どちらでも良い。好きな方を選ぶがいい。
 私は手加減しないぞ。いつでも本気です!」


 『待て待て恭子。たかが口の弾みだ。
 話せば分かる。乱暴な真似だけはするな。猛禽類も獣もどちらも嫌いだ。
 オイラはまだ、こんな所で死にたくない。
 謝る。謝るから乱暴な真似だけは考え直してくれ。
 まったく、清子も恭子も、揃いも揃って怒った途端に
 予測不能の非常識な行動に出るから、まったくもって困ったもんだ』


 でも、やっぱりお前の胸からは、何とも言えないいい匂いがすると、
たまがふたたび鼻面を、名残惜しそうに恭子の胸に押し付けます。
飯豊連峰は山裾の広がりや雄大さにおいて、またその標高において、
東北でも屈指の山塊のひとつと言われています。
福島、山形、新潟の3県にまたがり、主稜線は2000m級の
ピークを連ねています。
山脈の長さは、ゆうに20キロを超えていきます。
主峰の飯豊山は、古くから会津の人々の熱い信仰を集めてきた山です。


 主稜線には、起伏の少ない草原の道がどこまでも続いていきます。
標高からいけばこの一帯には、針葉樹林帯が存在をするはずですが、
厳しい気候と地形がそれらの景観を許しません。
飯豊連峰は、世界的にも有数な豪雪地帯として知られています。
日本海から吹きつける豪雪のために、稜線上では樹木が一切育ちません。
風が激しく吹き付ける稜線の西側には、比較的緩やかな斜面が
残っていますが、東側には、深くえぐられた谷がいくつも
連続をして現れます。
風に吹き飛ばされた雪が、東側の斜面に大量に降り積もるためです。
大量に蓄積された雪が、春の雪崩となって東側の山肌を鋭く
深く削り取ります。


 高山植物たちもまた同じように、
乾燥を好む花は稜線の西斜面一帯を飾ります。
湿地を好む花たちは、急峻な東の斜面に根を下ろし、一面にわたって
咲き誇ります。
飯豊連峰は痩せた稜線を境目にして、長い時間をかけ、
東西非対称の大自然をじわりじわりと形成してきたのです。


 「イヌワシや、クマタカなんかが住んで居るの。ここには」


 「居るよ。あたり前じゃないか、清子。
 ここは、東北地方がほこる大自然のど真ん中だよ。
 イヌワシもクマタカも、翼を広げると2メートルを超える大型の鳥だ。
 ゆうゆうと翼を広げて空中から、大草原の中に獲物を探すのさ。
 点々と雪渓が残っているここの草原の中には、
 わたしたちの目には見えないけれど、猛禽類の餌といえる
 たくさんの小動物たちが住んでいるんだよ。
 特に、愛嬌者のオコジョなんかは、有名だわね」


 「オコジョ?。」


 「猫の仲間で、体長が20cmくらいになる、イタチ科の小動物さ。
 別名は、ヤマイタチ。行動はとにかく素早いよ。
 登山の途中で時々みかけるけど、ヒョイと人の前に現れたかと思うと、
 またあっというまにどこかへ消えてしまう、ひょうきんな奴だ。
 チチッ、チチッと鳴いているのが、オコジョの声だ」

 『あっ、』と清子が突然、大空を見上げます。
青空の遥か彼方に悠々と翼を広げ、気流に乗る鳥の姿が現れています。
『イヌワシかしら、それともクマタカかしら・・・
遠すぎて、よく分からないわねぇ』
額に手をかざした恭子が、目を細めたまま遠くを窺い続けます。
悠然と、上空で旋回を繰り返していた大きな鳥が、
ふと1点に狙いを定めます。
角度を変えた大きな翼がひらりと身を翻すと、
落ちるような角度での急降下状態を見せはじめます。
大空を滑空をしていく黒い塊が、地上スレスレにまで一気に迫ります。


 「狩りかしら。草原に向かって舞い降りていくもの・・・」


 風を切って舞い降りてきた大きな影が、草原に向かって鋭い足を大きく
伸ばしてから、ふたたび上空へ向かって羽ばたきます。
『獲ったのかしらねぇ・・・』『さぁ。遠すぎてよくわからなかったけど』
唖然と見上げる2人の頭上に、いつのまに現れたのか、
もうひとつの別の大きな鳥が、ぐるぐると旋回の様子をはじめています。



 『よかったわねぇ、たま。
 あんた、大きな鳥の餌にされなくて』

 『冗談じゃねぇよ。オイラ、山に可憐な高山植物を見に来たんだぜ。
 ・・・それにしても初めて見たが、でかい鳥だったねぇ、
 あいつときたら。
 あんなのに狙われたら、オイラなんかひとたまりもねぇや。
 2度と出ないぞ。オイラ、せっかく入った恭子の懐の中から!』


(60)へつづく