帰り道
「天使って何をしてくれるの?」
こんなときでも キミの質問に不意を突かれる。でも、答えないわけにいかない。
「そりゃ神様のお使いだから神様の言う通りなんじゃ……ない…かな」
「じゃあ、天使は悪くないよね」
「うー、たぶん」
「あんなに綺麗な羽を持っていて、優しく微笑んでるんだもの 意地悪はしないよね」
ボクの思考は キミの真意を汲みとろうと急速に動き始めたが、口に出てくる言葉は拙く、キミの言葉を聞くだけの耳を澄ませた。
「…どうした?」
「天使は、自分じゃ決められない……神様が意地悪?決めたことなのかなぁ」
キミが、そういって空を見上げた。ボクの目の前に 白いものが落ちてきた。
「あれ?雪?」ボクは見上げた。
数えられる程の雪の結晶が落ちてきたがその時だけだった。
この道の角を曲がってしまえば、もうマンションまでは僅かな距離だった。
ふたりの歩く速度が、しだいに遅くなるのはどうしてだろうか。
部屋に着くまでに、もっと聞きたかったことも話しておきたいこともあるような気がしてならない。この空の下なら、素直になれる気がした。
そんな思いのまま、キミがうずくまっていたマンションの郵便受けの前を通り過ぎて、ボクはポケットから鍵を取り出す。
「お出かけ楽しかったよ」
「そう?」
キミがあたりまえに居ることになれてしまいそうだったボク。
傍にあるキミの笑顔。大切なことに少し気付けた。
キミをわかろうとしているボクがいる。
キミとぶらりと過ごした時間。
ただそれだけなのに……。
― 了 ―