帰り道
日の暮れた街は、まだまだ冷える。店から出たときは温かかった体も 時折、冷たい風が、横を通り過ぎていくたびに寒さを感じていった。
ボクたちは、キミがボクの腕にしがみついたまま、数分歩いただろうか。
急にキミの足が前に進まない。止まって横を見ている。
「おっ」ボクも思わず、そんな声を出してしまった。
道路に面した大きな一枚硝子に描かれた絵。エンジェルが、星の描かれたノートを胸に抱え、片手には 真っ白なふわふわした羽のペンを持っていた。その星は、電飾が施され、点灯している今、とても素敵だった。
その、右側の銀色のサッシに填まった硝子の扉は、この店の出入り口だ。
この店は、ファンシーショップ“fancy shop”和製英語ではあるけれど、そういえばもう通じるほど生活に溶け込んだ言葉になっている。
ボクの隣に居るキミには、興味のある店なのだろう。店内だけでなく、外装にも電飾や明かりが灯ったその店は、夢のように輝いて見えているに違いない。
「寄って行く?」キミに気を遣うふりをして、実はボク自身が足を踏み入れたがっていた。
「どうしようかなぁ」と遠慮がちなキミの背中をボクは押した。
「見てみたら、ね」キミの横からボクの手は、その硝子扉の取手を引いていた。
店内は、外から見たよりも広かった。壁のパステルの色使いが、ボクの居心地を悪くはしたが、嫌ではなかった。ボクの知るところの ごく若い、年齢的には十代から二十代の女性向けの文房具やキャラクター商品などの小間物やアクセサリなど装身具、可愛らしい装飾品を取り扱っている店舗という認識は、まんざら外れてはいないようだ。気付けば、ボクのほうが、キミより店の奥に入り込んでいた。