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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (57)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (57)銀河のど真ん中


 「用意がいいねぇ。本かつお節に削り器まで持参とは恐れ入った。
 やっぱり三毛猫のオスは、いちいち待遇が違うねぇ」


 かつお節を削るいい香りに誘われてヒョイと顔を出したヒゲの管理人が、
たまの顔を覗き込みながら、しきりと感心をしています。
『折角ですから、管理人さんにもおすそ分けです』と、清子がさらに大量の
かつお節を削ります。


 「おっ。これは嬉しい限りのおすそ分けだ。
 じゃあ早速、みんなの分の味噌汁でも作ろうか。
 ありがとうよ、お嬢ちゃん。
 また、後で遊びに来るからな!」


 トントンと階段を下りかけた、管理人が途中で立ち止まります。


 「そうだ。さっきから急に表の雲行きが怪しくなってきた。
 よかったねぇ、お嬢さんたち。この先の
 一ノ王子でテントを張らなくてさぁ。
 ここは雷の通り道だから、ちっとも珍しいことじゃないが、
 お2人さんも、雷さんにヘソを取られないように
 せいぜい気をつけてくれよ。じゃあな、またあとで」

 「一の王子って?」

 
 「ここから150mほど上にある、稜線上のテント場のことさ。
 登ってくる途中で発達した積乱雲を見たけど、
 やっぱり今夜は雷さんの襲来か・・・・
 初夜からいきなり雷の洗礼を受けるとは、清子もついていますねぇ。
 さては、山の神に好かれたかな?。うっふふ」


 「雷さまですか!。
 恭子お姉さんは怖くはないのですか?」

 「失礼な。山の雷は怖いさ、あたしでも。
 頭の上じゃなく、自分の足元や、周りの四方八方で
 ガラガラと鳴るんだもの。
 テントの中にいたんじゃ、とても生きた心地なんかしません。
 山小屋の中に居ても、それは同じことですけどねぇ」


 恭子の説明が終わらないうちに、山小屋の窓の外を
いきなり閃光が走ります。
『あっ、』と清子が窓の外へ目をやった次の瞬間、バリバリという
激しい音が、鋭く空気を切り裂きます。
続けてドッカ~ンという落雷の大音響が、2人の耳を直撃します。
『きゃ~ぁ』と悲鳴を上げた清子が、あわてて恭子の胸へ飛び込みます。
夏用の寝袋を広げた恭子が、清子を抱きとめながら素早く
頭から被ってしまいます。


 屋根を激しく叩き、大粒の雨が落ちてきます。
恭子の懐で、清子がウッ~声を上げてとうめいている間に、
山小屋はしっかりと周囲を、雷に取り囲まれてしまいます。
上から下から、右から左から、ゴロゴロゴロ~ピカッ!ドッカ~ン!!
ピカッ!ドッカン!ドッカン!・・・・
鼓膜の保護のために耳に両手を当て、恭子の胸の中で背中を
丸めていた清子が、少し離れたところで、きょとんとしているたまの存在に、
ようやくのことで気がつきます。


 「何やってんの、たま。
 おへそを取られてしまいます!』


 いきなり片手を伸ばし、
かき寄せるようにしてたまを手元へ抱き寄せます。
激しい雨と猛烈な稲妻の競演は、この後、1時間あまりにわたり、
ドカン、ドカンと2人の周りで大音響を轟かせます。
山では、ある瞬間から突然に雷雨が遠ざかっていく様子が、なぜか
手に取るように、伝わってきます。
雨があがった瞬間に雷は、まるで駆け足でもするかのように
遠ざかっていきます。
あれほど騒がしかった窓の外が、いつのまにかの星空に変わっています。


 「お~い。無事か、お2人さん。
 無事でいるなら、山小屋の外へ揃って出ておいで。
 雷さんの置き土産は、降るように満天に輝く天体ショーの始まりだ。
 凄いぜぇ。銀河系の星が一斉に、全員もれなく
 頭の上で勢揃いをしているぜ。
 こんな星空を見るのは俺も久しぶりだ。早く出てこいよ、
 最高だぜ!」

 「たま。表で、星空が最高ですって。早速見に行こう!」


 たまを抱えた清子が、ガバっと元気に立ち上がります。
『うふふ。今泣いていたカラスが、もう笑っていますねぇ。
現金だねぇ清子は』夏用の寝袋を被りっぱなしで、
すっかりと全身に汗をかいていた恭子が、ふわりと前髪をかきあげながら、
うふふと小さく笑っています。


(58)へつづく