ペンギンズ・ハッピートーク~空想科学省心霊課創設の経緯~
エンデの話によれば浦見トンネルは、街と、隣接するK市との境にある山を貫いているトンネルで、全長はおよそ二キロメートルほどの小さなトンネルである。見通しが良いし、K市に行くには最短のルートであるため、開通当時は利用者も多かったらしい。しかし開通してまもなく、トンネル内で事故が頻発し、それから毎年多くの死傷者を出すようになった。そのお陰で今やすっかり人通りも絶え、時おり近所の小中学生が肝試しに出向いたり、暴走族がたまり場にしているくらいにしか、使われていないらしい。
「しかも名前が名前だからさ、“恨みトンネル”なんてあだ名までつけられちゃってるみたいだよ」
「ほう」
実は私も先ほどそう聞き間違えたわけだが、それについては言わずにおいた。
「しかし強盗殺人とはまた、物騒な話だよな」
「スズっちだって十分、物騒な目つきしてるじゃん」
「…………」
「冗談冗談。そんな殺人鬼みたいな目で睨むなよう」
「……まあ、良いがな」
私は肩をすくめて、エンデに先を促した。
「ああ、そう……それでさ。その調査で、まあ色々と収穫があったわけなんだけど。そういう証拠品と一緒に、コレもついてきちゃったみたいなんだよね」
コレ、と言いながら、エンデは自分の背後の空間を親指でくいっと指し示した。私は肯いて、それで……、と口を開こうとした。
その時。
『ちゃららーっちゃらららららーどどんっ』というような電子音が、人けの無い店内に鳴り響いた。確かこれは、日曜の朝八時台に放送している戦隊ヒーローものの、オープニング曲だ。従姉とのカラオケでよく聴くため、覚えてしまった。
「あ、ごめん。あたしだ」
エンデが言いながら、蛍光黄色のウエストポーチからスマートフォンを取り出し、素早く耳に当てた。
「もしもし……ああ、そうですか。はい、分かりました。有難う御座います。すぐそちらに向かいますので……、はい、それでは」
「何か用事でもできたのか」
急いでスマートフォンをしまっているエンデに聞くと、彼女は満面の笑みで肯いた。
「うん。警察からだったんだけどさ。被害者の家族・恋人と、事件発生時に現場付近にいたと思われる暴走族のメンバーを、警察署内に集合させたから、来いって」
「…………あ?」
「そういうことだから、あたしはこれで失礼するよ」
「あ、おいちょっと待て」
私は慌ててエンデを引き留めた。不思議そうに振り返った彼女に、私は一言、尋ねた。
「それは面白くなりそうか?」
作品名:ペンギンズ・ハッピートーク~空想科学省心霊課創設の経緯~ 作家名:tei