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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (56)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (56)三国の山小屋


 「おっ、珍しいねぇ。美人姉妹の登場とは、俺も運がいい、
 今日はいい日だ。
 三国の山は初めてかい。お姉ちゃんたち」

 山荘の前で薪割りに汗を流していたヒゲのオーナが、早くから
2人の到着を待ち構えています。
久しぶりに聞く山での他人の声に、たまもひょっこりと清子の胸ポケットから
眠たそうな顔を出します。


 「こいつは驚いた。
 美人の姉妹だけかと思ったら、なんと子猫のおまけ付きだ。
 へぇぇ、三毛じゃないか、珍しいねぇ。
 で、どうするんだい、あんたたち。
 テントを設営するのならもう一つ先の山小屋まで足を伸ばすようだが、
 泊まるのなら、ここも上も同じだよ。
 今日の宿泊予定者は、あんたたちを入れても7人だ。
 ここは40~50人が泊まれるから、今日はのんびりと眠れるよ。
 んん・・・・どうした、姉ちゃん。何か気になるものでも見つけたか?」


 山荘の庭に立ち、しみじみと建物の様子を見上げている清子に
オーナーが気がつきます。
無人の山小屋が多い東北の山では、夏場に限って管理人が雇われます。
ほとんどが役所からの委託を受けたもので、オーナーと呼ぶよりは、
正しくは役所からの委託を受けた管理人です。
冬場になっても山小屋は閉鎖されず、避難小屋としていつでも利用をすることができますが、管理人は不在に変わります。
東北でも屈指の豪雪地帯に変わるこの一帯では、時として積雪が
3mから5mを記録します。
2階建ての三国小屋ですら、屋根まですっぽりと雪に覆われてしまいます。


 清子が見つめているのは、入口ドア付近にがっしりと取り付けられている
太い角材で製作された屋根まで届く巨大な梯子です。
2階と思われる部分には、1階と同じ規格のドアが同じように
取りつけられています。
『ということは、はしごを上がれば同じようにして2階から
山荘へ入ることができるというわけなのかしら・・・』
と清子がつぶやきます。


 「その通りだよ。お姉ちゃん。
 このあたりは、東北でも指折りの豪雪地帯だ。
 だが、山が好きな連中は、真冬であろうがこのあたりの登山にやってくる。
 もちろん、やってくるのは素人じゃない。
 ここはアルプスやエベレストへの遠征前のトレーニングとしては
 格好の地さ。
 夏場は手頃に高山植物や、天空の花園などを楽しみに来る
 一般人たちの憩いの空間だが、冬場は、
 一転して気象の荒いトレーニングの地に変わる。
 そういう人たちのための設備が、あの頑丈な梯子だ。
 1mも積もれば、もう1階のドアから入りことはできない。
 そういう場合には、梯子を登って2階のあのドアから山荘の内部へはいる。
 それだけじゃないぜ。
 普段はほとんど使わないが、万一の時にそなえて
 2階の屋根からの入口もある。
 だが、コイツの使い道はそれだけじゃない。
 理由が知りたかったら、まずはこの梯子を自分の足で登ってみることだ」


 促された清子が、興味本位からヒョイと梯子を天空に
向かって登り始めます。
それを見つめていた恭子も、リュックサックを地面におろします。
風雪にささくれ始めている木材の感触をしっかりと確かめながら、2人が
ゆっくりと2階の屋根部までたどり着きます。
最初に頂点へ着いた清子が、ひらりと身体を翻して
2階の屋根に降り立ちます。


 「ほう・・・見かけによらず、身の軽い子たちだな。
 どれ、わしも、久々に登ってみるか」


 後から屋根まで登ってきたヒゲの管理人が、
ヒョイと清子の細い腰を捕まえます。
『え?』と驚く清子をよそに、そのままふわりと肩まで担ぎ上げた管理人が、
スタスタと屋根の斜面を歩いて、一番の高みまで登っていきます。

 「どうだい、姉ちゃん。
 あんたたちが、6~7時間もかけて歩いてきた下界の山が一望の下だろう。
 俺の目よりも高い位置にいるお前さんは、たぶん、オレですら、
 見たことがない絶景のはずだ。
 そこからの気分はどうだ。お姉ちゃん!」


 「最高です!。こんなのは生まれて初めての景色です。
 もう清子は、登山がしっかりと病みつきになってしまいそうです!」


 明るい清子の声が、ガスが晴れてくっきりと山容をあらわにしてき三国山の
山肌に、こだまを呼びながら響き渡っていきます。


(57)へつづく