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京都七景【第七章】

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「えー、ルールが厳しすぎるよ。何しろ失恋以前に出会い自体が僅少なんだからな」とわたしも不平を鳴らす。

「なら、もう一つルールを付け加えよう」と露野。

ルール五 話題が払底した者については、話題が豊富な者が、代わって話題を提供しなければならない。

「なら、まあ、いいけど。そううまく行くかな」とわたし。

「無茶だな。俺たちの経験には限りがある。それも限りなく限りがある。無茶だな」いつになく堀井が頑なになっている。

「おれも最初は実行不可能かと思ったが、今は不可能とまでは言いきれないと考えている。
逆に条件が困難なほど達成できた時の喜びは計り知れないのではないか。ゲーテが詩を作ったときも、きっとこんな気持ちだったかもしれん」と、大山はすでに乗り気になっている。

「それって、どういう意味だい?」とわたしが理解できずに質問する。

「なあに、ゲーテの詩はだいたいが定型詩だろ。定型詩にはいろいろと厳しいルールがあって、作るのにひどく手間がかかる。だが、そのルールがあるために、古典的な美しさが備わるといってもいい。ルールにのっとってルールを自在に操る。それこそが詩人の腕の見せどころ、やりがいってやつさ。おお、腕が鳴るぜ」
「僕もかまわないぜ。ただ、僕だけ話すことになっては、ちょいと申し訳ないけれどね」
「ルールを変えたって、結局、神岡が話すだけじゃあなー」
「次はおれが話すからさ。やれるところまでやってみないか。なあ、みんな」
「大山がそうまで言うなら、俺はいいぜ」と堀井が賛成する。だが、どことなく元気がない。大方の予想にたがわず、やはり話題に事欠いて苦しい立場に追い込まれているのではなかろうか。
「僕もかまわないよ」
「じゃあ、おれも賛成しようかな」と、あくまで日和見主義者のわたしではあった。

「で、大山はどんな話をするんだい」と堀井が尋ねた。

「うむ、南禅寺を舞台に俺の悲恋の物語を披露しようと思っている。だから、俺の後に続く話し手は、すまんが南禅寺と蹴上をつなぐ線で話をしてもらいたい。誰か頼めないかな」
「ようし、それなら俺が引き受けよう。自分の話じゃないが、ちょうどおあつらえ向きの話がある。それを話そうじゃないか」と、堀井が今度は元気よく引き受けた。話すことが見つかってなんだかほっとしたのかもしれない。

 さて、こうして話す順番も決まり、いよいよ大山が南禅寺の悲恋を語り始めた。
作品名:京都七景【第七章】 作家名:折口学