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桜が咲いたよ

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「…ほら、今年も桜が咲いたよ。」
そう言って腕を絡ませながら、お前は笑う。
「ほら!あそこ!うわぁ、すごい綺麗!満開になったら花見しましょ!」

お決まりの夜の人の目を気にしてのデート。
所々薄暗い街灯に照らされた河川敷。
そこには、見事な桜並木があった。

「あぁ、そうだな。」
「ほんと?やった♪」

屈託なく笑うお前。
その笑顔を本当に愛おしいと思う。

「なぁ…」
「ん?」
「こんな話を知っているか?」
「何?」
「『桜の木の下には、死体が埋まっている』」
「え…よく聞くけどさ…」

俺は咲きはじめた桜を見上げながら言う。

「桜は、死体の血を吸って咲き乱れるんだ。だから、こんなにも魅惑的な薄紅色をしているんだよ」

ごくっ、と唾を飲み込む音が聞こえた。

「ただ…桜は一瞬だよな…とてもはかない。咲き乱れ、散り乱れ…後には何も残らない…」

振り向いて、
お前の両肩をガッと掴んだ。

「なぁ…」
「な、何…?」
「お前は咲きつづけてくれるよな?お前は俺だけのために咲きつづけてくれるよな?な、“桜”?」
「あ…当たり前じゃ………え…………?」

ぽたり、ぽたり。
俺の手に伝わる、生暖かい液体。
俺はさらに力をこめる。

「俺だけのものになってくれ、桜…!」

俺は、ナイフごとお前を抱きしめる。

「俺だけのために笑ってくれ。お前は生きつづけるんだ。桜として。俺の為だけに咲いてくれ。これで毎日逢える。もう離されることもない…!」

「…さ…」
「え?」

かすかに聞こえる声に耳を傾ける。
俺の頬に、ゆっくりとお前が触れる。

「…さくら…の…したに…」
「あぁ。もちろんだ。」
「そう………」

お前の力がガクッと抜けた。
俺に触れた腕もダラリと落ちる。
かすかな笑顔の涙を拭き取ってやる。
そして、俺はお前の首を絞めた。
…口づけを、しながら。



この桜にしよう、と前から決めていた。
だから、お前専用の部屋を作っておいたんだ。
お前を寝かせ、血のついたナイフで土を削り、微調整する。
隠していたスコップで土をかける。
お前が段々見えなくなる。
でも大丈夫。
俺には見えてるから。
毎年、いや毎日逢いにくるから。
俺だけの、桜………




数日後。
テレビでは、毎日のように同じニュースが繰り返されている。
人気アイドル「桜」の突然の失踪。
ニュースの中で流れる映像の桜は、満面の笑みを大勢に向けていた。
あれはお前ではない。
だってもう、俺だけのお前がいるから…
もうすぐ、一緒になれるから…



今でも、伝説になっている。
ある河川敷の一本の桜が、通年咲いている、と。
その桜の下には、二体の死体が埋まっていると。

いつの間にか、人々はその桜をこう呼ぶようになっていた。

悲恋の桜ーーー



END

2012.2.25
作品名:桜が咲いたよ 作家名:碧風 -aoka-