赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (54)
登山口から歩き始めて約2時間。
下15里、中15里、上15里の急坂をそれぞれに乗り越えて行くと、
登山道に大きなブナの木が目立ってきます。
ウドやタラの芽などが目立っていた潅木の中に、小さな可憐な花をつける
高山植物たちも姿を現してきます。
眺望が開け始める笹平・横峰の広場にようやくの思いで到着をした頃、
初心者の清子はすでに、全身にびっしょりと汗をかいています。
「清子。休憩中に汗はしっかりと拭いておきなさい。
今日は蒸し暑いようですから、少し動くだけで汗をかきます。
水だけはまめに摂っておきなさい。あとで、ばてる原因になりますからね」
「汗をかいているのに、
水だけはたくさん摂れというのは矛盾をしています。
あっ・・・・胸の谷間を、たったいま、冷たい汗が流れていきました!」
「嘘をつけ。Bカップもどきに、胸の谷間があるもんか。
見栄を張るんじゃないよ、まったくのペチャパイ娘が。うっふっふ」
「恭子お姉さんのお胸は、
大きくて形がいいので羨ましい限りです。
どうしたら、そのように大きく成長をするのかしら・・・・
何か秘訣のようなものでも有りますか?」
「秘訣かどうか知らないが、
乳製品や豆腐などの豆類はよく食べます。
母親からの遺伝だという人も居ますが、食生活や
睡眠の方が大切だと思います。
北海道や東北の女性の胸が大きいのは、乳製品などをよく食べている
結果と言われているし、豆類などの消費量もずいぶんと多いそうです。
昔の女性の胸は20代前半で、大半がAカップと言われています。
今はCカップが多いとされていますが、その差は、
成長ホルモンの違いのようです。
ある程度の年齢から、女性ホルモンと成長ホルモンが分泌をはじめます。
さらに胸には、プロラクチン受容体というものが出来上がってないと、
乳房は、大きくはならないと言われています。
プロラクチン受容体は、10歳前半で出来る人もいますが、
遅い人では20歳を過ぎたり、
中には一生出来ない人もいると言われています。
成長ホルモンは、18歳をピークに20歳から減少するそうですが、
ゼロになるわけでは無いそうです。
中には奇跡的に、20歳を超えて大きくなる人もいるそうです。
ふふふ。そういうことですからお前も、今から心配する必要なんかは、
決してありません」
「プロラクチンって何ですか?」
「プロラクチンというのは、
脳の下垂体から分泌されるホルモンのことです。
女性の妊娠や出産などに大きく関わるホルモンです。
妊娠中は乳腺を発育させ、出産後は、乳汁の分泌を促す役割を果たします。
そうか、お前はまだ、身体が大きく変化を遂げる前の年頃だもんね」
「男の人に胸を揉まれると、
大きくなるというのはまったくの嘘ですか?」
「たまたまプロラクチン受容体の成長期と重なって、
大きくなっただけの結果だろう。
生理学的には何の根拠もありません。なんだい、お前。
女の胸は、男の人に揉まれると、大きくなるとでも思っていたのかい?。
可愛いねぇ。そんなものは、まったく根拠のないガセネタのひとつです。
エッチと胸の大きさに、相関関係はまったくありません。
あっはっは」
『さて行くよ』と、恭子が前方の登山道を見上げます。
灌木林の中の登山道をしばらく進んでいくと、やがて地蔵山の山頂に向かう
小道と、地蔵山の麓を巻き峰秀水を経由していく分かれ道に到着します。
『初心者に、山頂へ向かう道は少しばかり手強いものがある。
今日はこっちだな』と、恭子がなだらかな道が続く
巻き道へ進路を取ります。
「清子。プロラクチンの成分は残念ながら含まれていませんが、
この先で、美味しいミネラルが含まれている、
峰秀水の湧水がたっぷりとある。
水筒を用意して、たっぷりと汲んでいこう。
冷たい水で顔を洗ったら疲れた身体が、いっぺんに元気になるよ」
「冷たい湧水などがあるんですか!。最高ですねぇ」
「よく周りを見てごらん。ブナの大木があちこちに見えているだろう。
ブナの林は昔から、天然の水瓶と言われているくらい、
豊かな水源地になるんだよ。
何も見えない私たちの足元を、地下水が脈々と流れているんだ。
冷たい湧水は、汗を流して登る人たちへの、山からのなによりの贈り物だ。
ほら。木の間から、もう、その湧水群が見えてきた!」
(55)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (54) 作家名:落合順平