うちの学校には妙な噂があった
それは突然のことだった。
本当にものすごく...。
クラスに一人はいる地味ーな女の子だった。
「あれ?大沢は?」
そいつが掃除をサボるなんて、ほんとにめったにないことだった。
「は?誰それ」
「馬鹿だなー!いくらなんでも隣の席のやつくらい覚えとけよ」
そいつは少々天然だったため、俺はまるで気にしなかった。
「おい!!お前等大沢しんねー?」
廊下でたまっていた女子達に聞いてみた。
(どうせ早退でもしたんだろう)
なんて思いながら。
「は?誰それ」
みな一瞬きょとんとした後でまた話の輪に戻っていった。
(まさか..)
「お前ら...大沢いじめてんのか?」
「は?!だからそんなこうちのクラスにいないし!!」
(..正気か?)
女子達はまるで俺の方が正気がなくなったかのような変な気の毒そうな目つきでみてきた。
(おいおい!ふざけんなよ?!)
そうして彼女はぽつりと消えた。
いや...
はじめからいなかったのかもしれない。
でも信じられなかった。
俺は一人で走り出していた。
走って走って走って...
気が付けば暗闇にいた。
「加地君?」
大沢が立っていた。
「....ここどこ?」
「わかんない」
彼女はやっと仲間がきたという開放感に満ち溢れた顔をしていた。
「ううん。..なんとなくわかる」
「え...?」
(なんか懐かしい感じはするけど...)
「刺激の国」
「は?」
「毎日がつまんない、退屈なひとだけが来れる、刺激の国よ」
「...学校のうわさになってる?」
「..そう。」
「...」
(こいつ..馬鹿じゃねえの?)
『お2人さん』
「え?」
『刺激の国へようこそ』
亀がいた。
「...は?」
「か..亀がしゃべった...」
『当たり前だよ。刺激の国だもの』
「...」
『ところで..君達は刺激を求めてこの国に来たんだろう?..帰るなら今のうちだよ。どうする?ここにいるなら刺激がある毎日を送ることができる。でもそのかわり...もとの世界の人たちは初めから君たちがこの世に存在していなかった者としてみなしてしまうことになる。』
「...」
「...」
(そもそも俺は..なんでここに来たんだっけ...)
友達もいた。
家族もいた。
勉強も運動もそこそこ、人並みに出来る。
もてなかったわけでもない。
でも...
なにかがなかった。
なにかがいつもからっぽだった。
「..私は..この世界にいます」
大沢がぽつりと、でもはっきりとつぶやいた。
「..なんで?」
「私...ふと思ったの。もし私が消えたとして、私のことを気にして泣いてくれる人は..一体何人いるのかな?って...。家族だけだった。それに気づいたとたん、この世界に来てたの」
どうしてだろう。
ぜんぜん違うのに、彼女からなにか同じさみしさを感じた。
冷たい雨のような匂いがする。
「..そっか...。じゃぁ俺もここにいよっかな」
「え?!」
「なに?..いけない?」
「いや..ちょっと意外だったから」
そうかな?
...そうだな。
『じゃぁ、もう知らないよ』
「え...?」
『君たちは..死ぬんだ』
「は...?」
「なっ..どうして?」
なに言いだすんだこの亀は?
『なぜかって?..そんなの決まってるじゃないか。人間は死ぬことによって新たな運命を選べるんだよ。君達の前世、と呼ばれるものはとてもめんどくさい疲れる人生を送ってきたんだ。だから今度はとてもつまらない人生を選んだ。...わかったかい?』
少し不安そうに大沢がたずねる。
「...どうやったら死ぬの?」
『...いくよ』
「え...」
あまりに唐突に僕等は死んだ。
そしてこの世から消えていった。
ドアがある。
いくつもいくつもドアがある。
何千何万何億何兆とある。
そしてそれらひとつひとつのドアには必ず覗き穴があった。
亀の声が聞こえる。
『覗いてごらん』
目の前にある何の変哲もないひとつのドアに向かって僕は歩きだした。
【チガウ】
僕の直感がなぜだかそういった。
ぼくはふらふらと向きを変えた。
そして、向こう側にあるドアに向かって走った。
走って走って走った。
僕はそこまで行くともう覗き穴もみないでドアのぶを回していた。
「可愛い男の子が産まれましたよ!!」
作品名:うちの学校には妙な噂があった 作家名:川口暁