誰が救うのか
そして思うんだ、また今日が来たって、何も変わり映えのしない色のついている3D空間にまた今日も。
「伊藤君」
僕はその声に反応し後ろを振り向く。
「猫背、直さないと」麻美は僕の背中をなでた。
「……ほおっておいてくれないか?」
「よけいな、おせっかいだったかな?」
「……」当たり前だろ。
教室は騒がしい。日常会話にそれほど意味があり、何かをなすのか。
授業が終わり、通いなれた道を歩く。
「伊藤君」
「うるせ!」
「ごめんね」
麻美の馬鹿が!
21時ぐらいまでテレビを見る。
布団に入ると、眠くなる。
目を開ける。
また今日だ。
変わり映えがない。
それを365日繰り返した。1年、年を取る。
何気ない日常が幸せと言う人間がいる。まったく共感できない。
「伊藤君」
「なんだよ!」
「ごめんね、私引越しするの。一人暮らし……するの」そう言い紙切れを僕に手渡した。
「住所……遊びに来てね」
その場でびりびりに破いてやりたかったが、取り合えずポケットにねじ込む。
帰る頃には紙切れの事なんてすっかり忘れていた。数日後洗濯でポケットの奥でゴミ屑になった。
目を閉じる。「伊藤君」
目を開ける、「麻美?」
「久しぶり」
見える麻美は透けていた。「幽霊なの?」その言葉に、うなずき、そのままうつむいた。
「迷惑だな」俺は麻美に背を向けてそのまま眠りにつく。
風の噂で麻美が交通事故で亡くなったことを知る。
それでか、とあの日の出来事に辻褄が合うのを感じた。
目を閉じる。「伊藤君」
目を開ける、「……」
幽霊麻美と沈黙を共有した。
「化けて出るなんて、僕に何か用があるのか?ないなら消えてくれ。消えられない出来損ないなら別だが」
「……」
「ほら、消えろって」
「……」
「だいたいずうずうしいぞ、人の家に勝手に表れて、呪い殺すなら好きにすればいい」
「……」
その日を境に麻美はあらわれなくなった。
冷たいかな?
でもこれが麻美の為でもあるんだ。気のないのに優しい言葉はかけられないさ。