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幻想消失

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永別



 それから女の子は、変わることのない夕焼けの街で、パーピリオとお喋りをしつつ、幻想を吹く日々を送った。幻想織りは、女の子とは一言も言葉を交わさなかったが、パーピリオとはよく、女の子には分からない言語で喋った。女の子は、いつでも微笑みを絶やさないパーピリオと、夕陽にきらめくシャボン玉に囲まれているのが、楽しかった。昼も夜も来なかった。パーピリオと幻想織りの他には、誰も姿を見せなかった。止まった世界の中で、女の子は何一つ思い煩うことなく、ただ幻想を吹いては、その幻想を眺める日々を送っていた。
 シャボン玉はゆらゆらと煌き、暫くの間そこらに漂っているが、やがて、女の子の夢を抱いて、どこかへ飛んでいくのだった。女の子は、形も色も光具合も、それぞれ違ったそれらを見つめ、微笑むのだ。
 そうして、動くことのない時間が暫く続いたが、或る時、幻想織りが、女の子の手から糸を引き抜いた途端、悲しそうに一声鳴いた。女の子もその瞬間、何が起きたのかを理解した。自分の中にあった、あの赤い糸が、ぷつんと切れてしまった。声を上げて泣き出したい衝動に駆られる。堪え切れなかった涙が一粒、右目から零れ落ちた。
その涙が地に着いたと同時に、女の子の周りに多くの音が響き渡った。その音は幾重にも重なり、どれも調和することなく、がちゃがちゃと、耳の中に捩じ込まれていくようだった。それらは、女の子が、その瞬間まで忘れていた音だった。車のエンジン音、小鳥のさえずり、人々の喧騒、足音、空気の流れ。夕焼けは深まり、時が動き出した。
 女の子は、ゆっくりと辺りを見回した。そこには、パーピリオも、幻想織りも、いなかった。そこには、ただ忙しげに足を動かす人々と、移動を繰り返すだけの車しかなかった。道の終わりには大きなビルが建ち、それまで女の子を照らしていた夕陽を遮っている。
 女の子は、きょとんとして、少しの間そこに立ち尽くしていた。そうして暫くしてから、ゆっくりと歩き出した。家路を歩く女の子の目には、道端に舞う蝶も、塀に止まる鳩の姿も、もう映りはしなかった。
作品名:幻想消失 作家名:tei