回転
5
あの女、さっきもここでキスをしていた。
そう、私のすぐ前で。
確かさっきの男はもっと背が高くて髪が短かったな。
…誰も見ていないと思ってこの女…。
春が近付くこの季節。
浮き足だつのはいいが気を付けろ。
ほら、私の後ろにさっきの男が隠れている。
声をおし殺して。
怖いくらい冷静にことの成り行きを黙って聞いている。
溜め息ひとつつかずに。
「あぁ…あいつと出会ったのもちょうどこの幹の下だったな…」
男が私をさする。
「早く咲いてくれよ、桜。」
泣け、男。
私しかいないのだから。
お前はもう充分我慢したんだから。
だから、ほらそうやって…
感情をおし殺すなよ
花、咲かしてやるからさ。